すばる望遠鏡、宇宙暗黒時代の終わりに迫る
【2009年2月10日 すばる望遠鏡】
宇宙を満たす水素ガスは、約10億年前に誕生した最初の天体が放つ紫外線によって「イオン化(陽子と電子に分離した状態)」したと考えられ、今もその状態にある。では、その天体の正体は何だろう? すばる望遠鏡は宇宙が若かったころの銀河を次々と観測し、そのなぞに迫った。
ビッグバンから40万年が経過して宇宙が冷えると、それまでばらばらに飛び回っていた陽子と電子が結合して水素原子になった。約10億年後、水素原子の大半は再び陽子と電子に分かれた「イオン化」状態になる。この期間は「暗黒時代」と呼ばれ、実際のようすを観測するのは困難とされている。
暗黒時代を終わらせたのは、宇宙で最初に生まれた天体が放つ強力な光であることがわかっている。とくに紫外線より短い波長の光は、水素原子をイオン化させる作用を持つ。問題は、そうした光を放っていたのが、どのような天体であるかという点だ。
「宇宙最初の天体」の有力候補は2つある。クエーサーと銀河だ。クエーサーは超巨大ブラックホールを中心に持つ天体で、ブラックホールがガスを吸い込む過程で重力のエネルギーを解放し、明るく輝く。一方銀河は、おもに水素をほかの元素に変換する核融合反応で輝く恒星の集団だ。
クエーサーの方が銀河よりも明るいが、短い時間の間に大量のクエーサーが成長するとは考えにくい。銀河は数が多いものの、水素をイオン化させるほどの光をどれだけ放っていたのかは不明である。実際に水素をイオン化させる紫外線(イオン化光)を放っているのが確認された遠方銀河は、これまで2個しかなかった。
そこで、遠方銀河のイオン化光だけを抽出するために特別なフィルターが作成され、すばる望遠鏡に装着された。すばる望遠鏡はみずがめ座の方向にある「SSA22」と呼ばれる天域を撮影し、そこに存在する約120億年前(宇宙誕生後約15億年)の若い銀河を調べた。この時代は「暗黒時代」が終わってから約5億年経過しているものの、その間に銀河の性質はあまり変化していないとみられている。
観測の結果、198個の銀河のうち17個からイオン化光が検出された。いくつかの銀河からは、従来の予想を上回るほど強いイオン化光が放たれていたこともわかった。また、イオン化光以外の光でとらえた銀河の中心と、イオン化光を強く放つ領域がずれている例もあった。
今後、宇宙初期の銀河をより多く観測することで、銀河がどれほどのイオン化光を放っていたかを見積もり、宇宙の暗黒時代がどのようにして終わりを迎えたのかがわかると期待されている。