常識を覆す超新星爆発の痕跡

【2009年7月30日 JAXA

X線天文衛星「すざく」を使った天の川銀河中心部の観測で、プラズマの「川」と源流にあたる「湖」が発見された。この構造は、5万年ほど前に起こった超新星爆発の痕跡と考えられているが、一方向に物質が流れる超新星残骸が見つかったのは初めてのことである。


(「すざく」が明らかにしたプラズマの湖と川の画像)

「すざく」が明らかにしたプラズマの「湖」と「川」のX線画像(提供:京都大学理学部物理・宇宙線研究室)

「すざく」が発見した、川に相当するプラズマの流れは、幅約24光年、長さ約65光年で、湖にあたるプラズマの集まりは幅約28光年、長さ約40光年である。

この領域は、これまで日米欧のX線衛星が何度も観測をしていたが、流れと塊は淡い構造だったため、発見には至らなかった。

X線スペクトル解析の結果、このプラズマの温度は約1000万度で、硫黄とアルゴンが大量に含まれていることが明らかとなった。また、川の流れは秒速約500kmで、湖の中央から川の先端まで約5万年かかったとされている。

この構造は、湖の中心で5万年ほど前に起こった超新星の痕跡(超新星残骸)で、湖が作られたのが爆発から1万年程度、その後約4万年かけて流れができたと考えられている。

これまで知られていた超新星残骸は、ほとんどが丸い形をしており、今回の発見は従来の常識を覆すものとなった。

研究チームでは、このような構造のでき方について以下のような仮説を立てている。過去の電波観測から、湖の周辺には「巨大分子雲」と呼ばれる冷たいガスが存在していることが分かっている。この巨大分子雲が「山」の働きをし、プラズマが周辺に広がるのを防いだ。ただし、一方向には山がなかったため、障害物のない方向に川が作られた、というものだ。

日本のX線衛星「ぎんが」、「あすか」、「すざく」の観測で、川の流れの先にある銀河系中心領域には大規模なプラズマの球が存在していることがわかっている。今回発見した川はこの「プラズマの海」につながっていると考えられている。

しかし、海を満たすにはこの超新星爆発だけでは明らかに不十分で、研究チームではまだ見つかっていない湖や川が存在していると考えている。今後も同チームでは、「すざく」や次期X線天文衛星ASTRO-Hを使ったより精密な観測を続け、それらの発見を目指したいとしている。

なお、このほかにも4件の論文が「すざく」の最新成果として、6月29日から7月2日まで開催された小樽すざく国際会議の場で発表された。詳しくはプレスリリースを参照のこと。