銀河から放り出された超巨大ブラックホールを発見か

【2010年5月13日 RASSRON

銀河から高速で遠ざかる、超巨大ブラックホールと思われる天体が発見された。このブラックホールは、より小さなブラックホール同士が合体して形成されたあと、これまでの住処から放り出されてしまったようだ。


(銀河の中心から離れた場所に発見された大質量ブラックホールの画像)

銀河の中心(白丸)から離れた場所に発見された大質量ブラックホール(赤丸)。クリックで拡大(提供:STScI/NASA)

わたしたちの天の川銀河をはじめ、多くの銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在している。活動するブラックホールでは、その中心に向かって物質が落ち込みながら激しく熱せられるために、周囲から強いX線が放射される。そのようなブラックホールが潜む銀河の中心をX線で観測すると、ちりやガスなどを見通して、ブラックホールの周辺領域とブラックホールの存在を明るい点としてとらえることができる。

オランダ・ユトレヒト大学の大学生Marianne Heida氏は、オランダ宇宙研究機関(SRON;Netherlands Institute for Space Research)で、数十万個のX線源と数百万個の銀河の位置とを比較するプロジェクトを進めていた。Heida氏はカタログ中のある銀河を見て、銀河の中心から外れた場所に、X線で輝く恒星状の明るい点が存在していることに気づいた。その明るさは超巨大ブラックホールに匹敵するものであった。

このような大質量の天体を放り出すような現象としては、ブラックホール同士の合体が考えられる。近年のコンピューターシミュレーションによると、合体前の2つのブラックホールがどのような速度と角度で自転していたかという要素が、合体後のブラックホールの速度を大きく決めるようだ。今回発見された、銀河中心から外れたところにある超巨大ブラックホールと思われるX線源も、このような過程で形成され高速で移動するようになった可能性がある。

Heida氏の研究によって、ほかにも似たようなX線を放射する天体が数多く発見されており、NASAのX線観測衛星チャンドラによる観測が待たれている。観測によって、この不思議なブラックホールがほかにも発見され、合体前のブラックホールの特性を知る手がかりが得られるかもしれない。また、ブラックホールが合体する際には重力波が放射されると考えられているが、将来打ち上げ予定の人工衛星LISAによって重力波を検出し、ブラックホール同士の合体現象そのものも観測できるようになるかもしれないということだ。