強烈なジェットを噴出する恒星質量ブラックホールの発見
【2010年7月14日 ESO/Chandra】
これまでに知られている恒星質量のブラックホールのうち、もっとも強力なジェットを噴出するものが発見された。ブラックホールを取り巻く円盤に垂直な方向に放射されている高速の両極ジェットは周囲のガスに衝突し、差し渡し約1000光年にも及ぶ高温ガスの巨大な泡構造を生み出している。
ヨーロッパ南天天文台(ESO)の大型望遠鏡(VLT)とNASAのX線天文衛星チャンドラが、ちょうこくしつ座の方向約1200万光年の距離に位置する渦巻き銀河NGC 7793の外縁部にある恒星質量ブラックホールを観測した。
「恒星質量ブラックホール」は、恒星が一生の最期に起こす超新星爆発で形成されるブラックホールで、質量は太陽の数倍以上である。一方、銀河の中心に存在している「大質量ブラックホール」は、質量が太陽の数百万から数十億倍もある。
観測された天体は、マイクロクエーサーの1つ「S26」としても知られている。マイクロクエーサーとは、ブラックホールと恒星からなるX線連星で、光速に近いジェットを放出する天体だ。「S26」のブラックホールにも、伴星からガスが落ち込んでおり、円盤に対して垂直な方向に両極ジェットが噴出している。
その超高速のジェットが周囲のガスに突っ込み、ガスを熱して膨張させているようすが明らかになった。膨らんだガスの泡には、高温のガスとさまざまな温度の超高速粒子が含まれていて、大きさは差し渡し約1000光年ほどもある。ジェットがブラックホールの周囲のガスに突入する領域を観測した結果、ガスの泡は時速約百万kmで膨張していることもわかった。また、泡の大きさと膨張速度から、ジェットの活動は、少なくとも20万年前から続いていると考えられている。
研究チームの仏・ストラスブール大学のManfred Pakull氏は、「このブラックホールから、どれほどのエネルギーがガスの泡に注ぎ込まれているのかが判り、驚きました。このブラックホールの質量は太陽の数個分なのですが、まさにそのようすは、太陽質量の数百万倍もあるブラックホールのミニチュア版です」と話している。
また、研究チームの英・ロンドン大学 マラード宇宙科学研究所(MSSL)のRobert Soria氏は「ブラックホールの大きさに対するジェットの長さに驚きました。たとえば、ブラックホールの大きさをサッカーボールくらいとしましょう。すると、ジェットは、地球を超えて、冥王星の軌道よりまだ先にまで伸びていることになるのです」と話している。
ブラックホールは、物質を飲み込む際にブラックホールに近い領域で巻き上げられた磁場によって莫大なエネルギーがジェットとして放出されることが知られている。そのエネルギーの大部分はX線として放出されていると考えられてきたが、今回の発見によって、一部のブラックホールでは、少なくとも相当のエネルギー(または、かなり膨大なエネルギー)が高速粒子の流れであるジェットとして放出されていることが示された。