すばる望遠鏡、海王星のラグランジュ点L5にトロヤ群小惑星を発見
【2010年8月16日 Subaru Telescope】
すばる望遠鏡を使った観測によって、太陽−海王星の5番目のラグランジュ点(L5)という観測がひじょうに難しい位置に初めて小惑星が発見された。
米・カーネギー研究所のScott Sheppard氏とハワイ・マウナケア山頂にあるジェミニ天文台のChad Trujillo氏が、太陽−海王星の5番目のラグランジュ点(L5)という、観測がひじょうに難しい位置における小惑星の第1号「2008 LC18」を発見した。
ラグランジュ点とは、2つの天体から受ける重力のバランスがとれている位置のことで、この点に物を置くと安定する。太陽と惑星の重力が釣り合うラグランジュ点は5つあるが、そのうち、L1、L2、L3の3つは不安定で、そこに位置する天体は一度ずれ始めるとそのずれが大きくなり、公転軌道から外れてしまう。
一方、L4とL5は、惑星の公転軌道上で惑星よりも60度先か後の位置、つまり太陽と惑星との距離を一辺とする正三角形の頂点にあたる位置にあって安定しており、ちりの粒子やそのほかの天体が集まりやすい。また、トロヤ群小惑星と呼ばれる小惑星はこのラグランジュ点に位置しているため、惑星と同じ軌道上にいながら惑星と衝突することはない。これまで、火星、木星にトロヤ群小惑星が見つかっており、また海王星にもL4(海王星の公転に先行する位置)にはトロヤ群小惑星が見つかっていた。
海王星トロヤ群小惑星は、ひじょうに暗い天体で広範囲に散らばっている。そのため観測には、広い領域をサーベイでき、暗い天体を発見できる能力を備えたすばる望遠鏡が利用されている。L5の位置に相当する領域に海王星トロヤ群小惑星を探し出す観測では、すばる望遠鏡の主焦点カメラ「Suprime-Cam」がその位置を、南米チリ・ラスカンパナス天文台のマゼラン6.5m望遠鏡が軌道を決定するためにそれぞれ使われた。
Sheppard氏とTrujillo氏は、これまでに発見されている6つの海王星のトロヤ群のうち3つを、L4の位置に発見しているが、L5での発見は初めてだ。今回の発見の意義について、Sheppard氏は次のようにコメントしている。「発見した海王星トロヤ群小惑星の直径について、私たちは約100kmと計算しています。同様の大きさの小惑星がL5の領域にはまだ150個ほどあり、これはL4の領域に存在する数に相当します。すると、直径50km以上の海王星トロヤ群小惑星は、火星と木星との間にある同サイズのメインベルト小惑星より、もっと多く存在していることになります。海王星トロヤ群小惑星の多くが知られていないのは、太陽や地球から遠く、とても暗いためです」
Sheppard氏とTrujillo氏による研究成果は、太陽系形成初期、つまり海王星が現在と異なる軌道をめぐっていたときから海王星トロヤ群小惑星が存在し、その後ゆっくりと海王星が現在の軌道へと移ってきたことを示すものかもしれないし、あるいは混沌とした太陽系形成初期に巨大惑星が現在の軌道へと動いていくなかで小天体がラグランジュ点にとらえられていったことを示しているのかもしれない。いずれにせよ、トロヤ群小惑星は、太陽系がどのような進化を経てきたのか、また惑星がどのように形成されたのかを知るための情報を与えてくれる存在なのである。