「海王星トロヤ群小惑星」を3つ発見

【2006年6月27日 Carnegie Institution

海王星と同じ軌道上で力学的に安定した位置を回る小惑星が3つ発見された。海王星の外にある「エッジワース・カイパーベルト天体」が何かと話題になりがちだが、これらの小惑星のように海王星とほぼ軌道を共有するグループの天体も、数多く存在するとみられている。


(トロヤ群小惑星の軌道図)

トロヤ群小惑星の位置。木星のトロヤ群小惑星は木星の前後60度周辺の位置に分布している。一方、4つある海王星トロヤ群小惑星はすべて海王星の手前60度の位置にある。クリックで拡大(提供:Scott Sheppard)

今回発見された3つの小惑星は、「海王星トロヤ群」というグループに分類することができる。元々「トロヤ群」とは木星と同じ軌道上で、木星よりも60度先か後ろの位置、すなわちラグランジュ点(解説参照)にある小惑星の総称で、これまでに1800個程度見つかっている。海王星と太陽に対するラグランジュ点にある小惑星が、「海王星トロヤ群」だ。

木星トロヤ群小惑星よりも海王星トロヤ群小惑星の方が多いのではないかと考える研究者もいるが、海王星があまりに遠いため観測は困難だ。木星トロヤ群小惑星の第1号は1906年に発見されたが、海王星トロヤ群小惑星が初めて見つかったのは2001年のことである。今回、アメリカの研究グループが3つの発見を報告したことで海王星トロヤ群小惑星は4つになった。グループは、チリのラスカンパナス天文台にあるマゼラン6.5メートル望遠鏡による観測で、2004年に1つ、2005年に2つを発見し、マウナケアのジェミニ北望遠鏡による観測で正確な軌道を求めた。

新しい海王星トロヤ群小惑星の1つである2005 TN53は、他の3つに比べて公転軌道面が大きく傾いている。今回の観測に使われた方法ではこのような公転軌道面が大きく傾斜した天体を発見しにくいことを考慮すると、2005 TN53のような小惑星は数多く存在していて、海王星と同じ軌道を回る小天体の「雲」が海王星トロヤ群の姿なのかもしれない。

研究グループは、4つの海王星トロヤ群小惑星の色も測定した。4つとも淡い赤色で、同じ歴史をたどってきたことを示唆している。まだ4つしか見つかっていない段階でいろいろと論じるのは難しいが、グループは海王星トロヤ群の起源について、木星トロヤ群や巨大ガス惑星の周りを回るいびつな衛星と同じではないかと考えている。木星から海王星に至る巨大ガス惑星のエリアには無数の小天体が誕生したが、そのほとんどは惑星に飲み込まれたか、逆に太陽系の外へはじき飛ばされてしまったと考えられている。たまたま惑星付近の安定した位置にあった天体が、衛星やトロヤ群として生きながらえているというわけだ。

ラグランジュ点って何?

ラグランジュ点とは、2つの天体の重力のバランスがとれている位置のことで、この点に物を置くと、安定する。例えばラグランジュ点に人工衛星を打ち上げて地球と同じ公転周期で回転させると、太陽と地球の重力のバランスで人工衛星は安定して公転を続けるようになる。SFアニメ番組などでもコロニーが置かれている場所として登場するのでなじみ深いのが、5つあるラグランジュ点のうちL4とL5と呼ばれる位置。太陽と地球の距離を一辺とする正三角形の頂点にあたる。ちなみに、ラグランジュ点の実例として知られているのが小惑星帯の「トロヤ群」だ。重力的に安定していることから、木星と太陽に対してL4とL5の位置に相当する領域に数多くの小惑星が集まっている。(宇宙のなぞ研究室」より抜粋