地球の「第2の月」

【2006年6月16日 SCIENCE@NASA

地球の「月」と言えば1つしかないが、一時的に地球の周りを回るように動く小惑星が、わずかながら存在する。小惑星2003 YN107もその1つで、7年間にわたって「第2の月」になっていた。あまりに小さいため「お月見」する人はもちろん、衝突を心配する人もいないまま、2003 YN107はもうすぐ地球と別れる運命にある。


(小惑星2002 AA29の軌道図)

地球共有軌道小惑星の典型的な軌道。図は将来「月」となる2002 AA29(提供:Paul Wiegert)

2003 YN107のような小惑星は「地球共有軌道小惑星(Earth Coorbital Asteroids)」と呼ばれ、ほぼ地球と同じ、太陽を1年で公転する軌道を回っている。そのため、地球に追いついたり逆に追いつかれたりと、実質的には太陽を公転しながらも、見かけ上は1年に1回、地球の周りを回っているように見えるのだ。

普通の地球近傍小惑星(解説参照)が近づいて通り過ぎるだけなのに対して、地球共有軌道小惑星は近づいてからしばらく居座ることになる。もちろん、こうした小惑星に注目が集まるのは、近づいて「衝突する」という第三のシナリオが存在するからだが、地球共有軌道小惑星は特別に衝突の危険があるわけではない。地球の周りを回っているのは見かけだけで、重力的にとらえられた訳ではないのである。その上、地球共有軌道小惑星は一般にサイズが小さいため、万が一衝突したとしても被害はほとんどないだろう。

それでも、NASAの地球近傍天体監視プログラムのメンバーの中には関心を持って地球共有軌道小惑星を監視する科学者がいる。その一人、Paul Chodas氏は「今はただ、もの珍しいだけの存在ですよ」としながらも、将来は直接探査したり、鉱物的資源として利用できる可能性を指摘した。

今知られている「地球共有軌道小惑星」は、2003 YN107の他に「2002 AA29(アストロアーツニュース「地球とほぼ同じ距離を公転する小惑星」参照)」、「2004 GU9」、「2001 GO2」がある。そのうち現在地球の「月」といえる軌道を通っているのは、2003 YN107と2004 GU9だ。2004 GU9は直径200メートルと比較的大きくて、最新の計算によると500年前から地球の周りを回っていて、今後500年間も回り続けるだろうとのことだ。

一方、2003 YN107は直径わずか20メートル。1999年から地球の周りでらせんを描くように動いている。7年にわたり「第2の月(2004 GU9を考えると「第3の月」と呼んだ方がいいだろうか)」の座にあったが、まもなく離れてしまうだろう。6月10日に地球から340万キロメートルと、普段よりも近い距離まで近づいたので、逆に遠ざかるだけの勢いを得たのである。しかし、これは永遠の別れではない。60年後に2003 YN107は再び地球に近づくので、再びらせんを描きながら、ほとんど誰にも気づかれない「月」として地球の周りを回るはずである。

地球近傍小惑星

地球に接近する軌道を持つ一群の小惑星のこと。最近の観測体制の充実により、その発見数は増えている。これまで観測された中で、もっとも地球に接近したものは、小惑星2004 FU162(仮符号)で、2004年3月31日に地球中心から1万2900キロメートルまで近づいた。これは静止衛星軌道の約半分で、地表からだと6000kmあまりという至近距離である。かつて実際に小惑星の衝突が起こり、地球の環境に大きな変化を与えた(たとえば恐竜絶滅の原因の1つとなった)とする説も有力である。(最新デジタル宇宙大百科」より

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