小惑星?彗星? どっちつかずの奇妙な天体
【2006年4月20日 University of Hawaii, IfA Press Releases 】
「小惑星」と言えば主に火星と木星の間にある岩の塊で、「彗星」と言えば木星よりも遠くからやってきて楕円軌道を描き、太陽に近づくと尾を出す氷の塊。この常識を覆すかもしれない天体が発見された。「メインベルト彗星」と名付けられた天体の一群は、小惑星と彗星の両方の特徴を併せ持っている。それにもまして興味深いのは、メインベルト彗星が地球における水の起源について知る上で重要な手がかりになることだ。
火星軌道と木星軌道の間は、小惑星の大部分がひしめく領域で、「メインベルト」とも呼ばれている。単に「小惑星」と言えば、メインベルトにある小惑星を指すことが多い。メインベルトは比較的太陽に近い場所で、揮発性成分はすべて蒸発して岩石だけの天体が残っているとされている。メインベルトに対して「太陽から遠い場所」というのは「エッジワース・カイパーベルト」に代表される、太陽系外縁部だ。ここはメインベルト小惑星とは対照的に、水の氷などの揮発性成分を多く含む天体が数多く存在するとされ、ここから何かのはずみで太陽に近づく楕円軌道を描くようになった天体が、尾を伸ばす「彗星」として観測されると考えられている。
しかし、こうして分類しようとすれば、どんな世界にもコウモリ(哺乳類?鳥類?)のようにどっちつかずな存在がいるものだ。
2005年11月26日に8メートルジェミニ北望遠鏡で観測された天体、小惑星118401は、メインベルトのまっただ中を通る軌道を持ちながら、彗星と全く同じようにちりを吹き出していた。彗星として分類されていた天体133P/Elst-Pizarroと、P/2005 U1も、小惑星118401と同じ特徴を持つ。「これらの天体の軌道は小惑星のように黄道面に沿った円形に近い軌道であり、楕円軌道で黄道面から傾いていることが多い彗星の軌道とは異なります。それと同時に、その彗星状の外見は他のあらゆる小惑星とは別物です。つまり、どちらのグループにも当てはめることができないのです」と、ハワイ大学の大学院生シェ(Henry Hsieh)氏は語る。
観測を行ったシェ氏とジューイット(David Jewitt)教授は、こうしたどっちつかずの天体を「メインベルト彗星」と名付けた。彼らは、メインベルト彗星は太陽系外縁部からやってきたのではなく、元からメインベルトにいた典型的な(ただし氷を多く含む)小惑星であろうと見ている。もしそうだとすれば、他のメインベルト「小惑星」の内部にも氷があるかもしれない。従来の小惑星と彗星の分類は見直される必要がありそうだ。
ところで、「彗星」と言えば、46億年前に灼熱の惑星として生まれた地球に水をもたらした天体ではないかとして注目を浴びていた。しかし、これまでの分析によれば、彗星に含まれる水は地球上の水とは明らかに異なるものだと言われている。
では小惑星はどうだろうか。かつてメインベルトにあった小惑星のうち、氷を多く含む物が、地球に衝突したことで水をもたらしたというシナリオも考えられる。しかし、46億年間太陽に照らされたことで、地球など他の天体に衝突せずに現在まで生き残ったメインベルト小惑星の氷はすべて蒸発してしまったか、天体の内部深くに閉じこめられた状態で、もはや調べようがないと見られていた。「メインベルト彗星」の存在はわれわれに楽観的な見通しを与えてくれる。ちりを吹き出し尾を伸ばしているということは、まだ表面に氷があり、蒸発していることを意味するのだ。
将来、探査機がメインベルト彗星に含まれる水の成分を分析する日が来るかもしれない。そして、地球の水のおかげで誕生し進化してきた人類としては、メインベルト彗星を「どっちつかず」と呼んでおろそかにしたりはできなくなるかもしれない。
小惑星帯: 太陽系の火星と木星の間には、小さな天体が無数に回っています。これらは小惑星と呼ばれます。軌道がわかっているものだけでも、約10万以上にのぼります。小惑星が回る領域をメインベルト(小惑星帯)と呼び、その多くは円軌道を描いて回っています。「(太陽系ビジュアルブック」より一部抜粋)