太陽プロミネンスのバブルの謎が解明
【2011年4月21日 京都大学】
人工衛星などに影響を与える恐れのある太陽フレアやコロナ質量放出の発生原因に、太陽プロミネンスのバブルが大きく関わっていることがわかった。これは宇宙天気予報を発達させる上で大きな手がかりとなると考えられる。
太陽プロミネンス(紅炎)とは皆既日食の時などに太陽の縁から見える赤い炎のようなもので、光球から上層大気であるコロナ(注1)に突き出た温度の低い領域である。
コロナは温度が100万度を超えるような高温領域であるのに対して、プロミネンスは数千〜数万度と太陽の中では低温の現象だ。密度がコロナの100倍ほどもある冷たくて重い領域だが、沈まずに太陽表面に存在しているのは、磁力線(注2)が「ハンモック」のような役割を果たして浮かんでいるからだと考えられてきた。
2006年に打ち上げられた日本の観測衛星「ひので」は、この太陽プロミネンスに謎のバブル(泡)を発見した。太陽の大気では磁場が非常に重要な役割を果たしており、太陽の強力な磁場で周りを固められ「ハンモック」でつるされた冷たくて重いプロミネンスの中に、自由に変形する泡が存在していることは非常に驚きであった。
今回、NASAの太陽観測衛星SDOと「ひので」による極域のプロミネンスの共同観測と、コンピュータシミュレーションを駆使することでこのバブルの謎を解くことに成功した。
観測とシミュレーションの結果から、プロミネンスを支えるハンモック構造は大枠では間違っていないが、静的なものではなく常に磁力線が揺れ動いていること、バブルは100万度ほどと非常に高温でその領域は軽くなって上昇し、周りの冷たい領域は沈むといった対流構造を持っていることがわかった。
また、バブルは対流構造を引き起こすだけではなく、コロナ・キャビティ(「コロナの空洞」の意)と呼ばれる領域に磁気エネルギーを運んでいることがわかった。コロナ・キャビティはX線で見ると暗く低密度の領域で、プロミネンスの噴出と共にコロナ・キャビティも噴出し、コロナ質量放出を形成する。
コロナ質量放出は地球軌道の人工衛星にも影響を与えることがあり、人工衛星の故障や通信障害、電力網の寸断などが発生することがある。これらを未然に防ぐため、宇宙天気予報(注3)が必要とされており、この予報を正確に行うためにプロミネンスの解明やコロナ・キャビティ噴出の解明を行うことは非常に重要であるとされている。
注1:「コロナ」 プラズマの一種であり、非常に高温である。皆既日食の際に太陽の周りで白く見えるものがコロナである。
注2:「磁力線」 磁石のN極からS極へと向かう仮想的な線。この線の密度が高い領域ほど磁場の影響を受けやすい。太陽は非常に磁場が強く、電子などはこの磁力線に沿って動くので磁力線がどのようになっているか調べることは非常に重要である。
注3:「宇宙天気予報」 太陽活動の様子をモニターし、人工衛星などに影響を与えるような活動を予測することで、被害を最小限に抑えようというもの。日本では独立行政法人の情報通信研究機構が情報提供を行っている。