火星の南極に予想以上のドライアイス
【2011年4月25日 NASA】
火星探査機マーズ・リコナサンス・オービターの観測により、火星の南極に従来の見積もりの30倍も多くのドライアイスが埋まっていることがわかった。火星大気の量や火星の気候は10万年以下で非常に大きく変動していることが予想される。
地上からの望遠鏡でも見えるように、火星の両極はドライアイスで白く覆われることが知られている。南極で見られるドライアイスがどの程度の深さまで埋まっているのかを調べるため、探査機マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)に搭載された地下探査用レーダー(注1)で観測が行われた。
その結果、これまで見積もられていた量の30倍ものドライアイスが地下に眠っていることがわかった。今回発見されたドライアイスは12000km3にも及び、これは地球で3番目に貯水量の多い湖であるスペリオル湖(北米五大湖の1つ)の貯水量とほぼ等しく、火星大気に存在する二酸化炭素の約80%の量に相当する。
火星大気は二酸化炭素が95%を占めており、二酸化炭素の量の増減はそのまま火星大気の変動へとつながる。火星の自転軸は地球と同じく傾いているため、季節や地軸の傾きの変化(注2)によってこのドライアイスが昇華し、火星の気候に大きな変動を与えていることが予想される。
大気の量が増えると、火星でしばしば発生している砂嵐の規模や頻度が増えたり、風が強くなったりすることが考えられる。現在は火星に存在する二酸化炭素の約半分が大気に、残りの半分が地下に眠っている形になっているが、過去にはそのほとんどが大気に存在した、あるいはそのほとんどがドライアイスとなってしまっていた環境だった可能性がある。これまでの予想以上に、火星の気候は大幅に変化していたかもしれない。
二酸化炭素は地球温暖化の一因とされている通り温室効果ガスであるため、火星を暖める方向に働くが、同時に極に存在するドライアイスは火星を冷やす方向に働く。シミュレーション結果によると、火星では二酸化炭素の量が増えても、地球と比較して大気が薄く乾燥していることから(注3)、冷やす効果のほうが強いこともわかった。
一部のドライアイスの下には水の氷が存在していることがわかっており、火星の地形や隕石など様々な研究結果から火星には過去に液体の水があった可能性が指摘されている。今回の発見はそのような過去の火星気候を探る上で重要な発見となりそうだ。
注1:「地下探査用レーダー」 波長の長い電磁波を当て、反射して戻ってくる電磁波の強度や戻ってくるまでの時間から地下の構造などをある程度観測することができる。
注2:「地軸の傾きの変化」 地球ではこの傾きの変化によって引き起こされる気候変動をミランコビッチサイクルと呼んでおり、氷河期と間氷期の変動の原因と言われている。火星でも地軸の傾きが数万年単位で変化していると言われている。
注3:「乾燥と温暖化」 水蒸気も非常に強い温室効果ガスであるため、水蒸気量の多い地球と比較して乾燥している火星ではより温室効果は効きにくいと考えられる。