反ニュートリノで判明、地球は今も冷え続けている?

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【2011年7月21日 東北大学

岐阜県神岡鉱山にある液体シンチレータ反ニュートリノ観測装置「カムランド」を用いて、地球の内部で発生している原子核崩壊により飛来する反ニュートリノを測定することに成功した。この結果、地表で観測される地熱のおよそ半分だけが放射性物質によるものであり、残りは地球形成時の熱が残っている可能性が示された。


「カムランド」のタンク

「カムランド」のタンク。この中に1000トンもの極低放射能液体シンチレータが入っている。クリックで拡大(提供:東北大学)

地球で発生する地震や火山活動、それらを引き起こすプレート運動やマントル対流の原因である地熱を調べることは、地球の形成・進化の過程を追う上でも非常に重要である。しかし地球内部の熱生成を直接調べることは難しく、これまで地球を形成したと考えられる隕石(注1)を用いた間接的な推定くらいしかできなかった。

今回、放射性物質が崩壊する際に発生する「反電子ニュートリノ」を利用することで、地球内部に存在する放射性物質からの熱量の推定に成功した。

観測に用いられたのは岐阜県神岡鉱山にある液体シンチレータ反ニュートリノ観測装置「カムランド」である。「カムランド」は地下1000mの場所に置かれた直径18mの球形のタンクに1000トンもの特殊な液体を入れた反ニュートリノ検出器であり、地球反ニュートリノなど、低エネルギーのニュートリノも検出できるという特徴を持っている。

ウランやトリウムは地球内部の放射性物質の大部分を占め、これらが放射線を出して崩壊する際に、一緒に反電子ニュートリノを出すことが知られている。「カムランド」はこのウランやトリウムからの反電子ニュートリノに感度を持っているため、今回はこの地球内部のウランやトリウムからくる反電子ニュートリノの検出を行った。

しかし、ウランやトリウムからの反電子ニュートリノは地球内部からだけではなく、原子力発電所からも発生しており、これらを取り除く必要がある。原子炉からくる反電子ニュートリノは地球内部から来るものと比較してエネルギーが異なるため、区別することが可能だ。

2002年3月から2009年11月までの7年8か月分のデータを解析したところ、841個の反電子ニュートリノの検出に成功していた。そのうち大部分が原子炉やそれ以外の要因によるものであったが、106+29-28個(注2)が地球内部のウランやトリウムから来たものであることがわかった。

この数字をウラン・トリウムが出す熱量に換算すると、マントルからおよそ10兆ワット、地殻からは7兆ワットの熱が発生していることになる。今回は検出限界以下で測定できなかったカリウムからの熱(推定値)を合わせると、放射性物質から発生する全熱量はおよそ21兆ワットであることがわかった。

隕石を用いた推定では合計で20兆ワットの熱が放射性物質から発生していると考えられ、この結果ともよく一致していた。

地表面で観測される宇宙空間に放出している熱量は、地殻のボーリング調査からおよそ44兆ワットであることが知られており、この数字と比較すると約半分が放射性物質からの熱ということになる。

この結果、地球から発生している熱の全てが放射性物質起源でないことを証明することができ、残りの半分は地球が形成したときに重力エネルギーが解放されたことによって発生した熱が残っている、またはまだ知られていない別の熱源が存在している可能性を示している。

この「カムランド」の成果はニュートリノを利用した「ニュートリノ地球物理学」という分野の創出と、地球科学の重要な知見を得ることができたと言えるだろう。

注1:「地球を形成したと考えられる隕石」 地球を形成したのは、太陽系の平均組成とほぼ一致する始原的な隕石であるCIコンドライトだと考えられている。

注2:「106+29-28個」 誤差が上下で均等でないので、このように表記されている。106個と思われる事象に対して、誤差を考えると多くて135個、少なくとも78個は地球内部からの反電子ニュートリノである、という意味。