東日本大震災から1年 ―被災したプラネタリウムの今―
震災、復旧、そして地域の復興に向けて動き出した天文施設
【星ナビ2012年4月号掲載】
2011年3月11日に東日本を襲った未曾有の大地震、それに伴う津波、そして原発事故。多くの天文施設が被害を受け、休館を余儀なくされた。被害状況や復旧過程をこれまで何度か掲載してきたが、震災から1年を迎えた現状と今後の展望を改めて紹介しよう。
仙台市天文台
宮城県仙台市郊外の仙台市天文台では、建物やプラネタリウムに大きな被害はなかったが、ライフラインが寸断され、口径1.3mの「ひとみ望遠鏡」が大きく損傷した。ひとみ望遠鏡の大修理が進む中、施設全体の点検・修理を終えて4月16日に再オープン。「この日を待ちわびていた」というファンで久しぶりに賑わった。ひとみ望遠鏡修理期間中の観望会はアストロカー「ベガ号」が担っていたが、10月4日にひとみ望遠鏡の修理が完了し運用再開したことで、仙台市天文台の機能はほぼ復旧した。
再オープン後は順調に客足も戻り、11月には前年同月と同等の入館者数を計上。学習投影では塩釜市、名取市、石巻市など周辺市町の学校からの利用が増えてきたとのこと。3月11日には、この1年を振り返り、地域の復興への思いを新たにする復興祈念イベントを予定している。全館無料とし、プラネタリウム特別投影、星景写真展などを行うという。
大崎生涯学習センター パレットおおさき
建物の外部が大きく損傷、内部の設備も被害を受け、ドーム径18mのプラネタリウムも一部損傷。建物外部の被害は大きかったが、職員総出の仮復旧により安全を確保し、5月22日に「プラネタリウム復活祭」を開催。再開を心待ちにしていた500人以上の来館者で大いに賑わった。その後全館が再オープンしたのは8月22日。入館者はあっというまに震災前の数に戻り、夏季には例年以上の入館者数となった。市内はもとより東松島市や石巻市など津波被害の大きかった沿岸部からの来館が増加したのだという。
これを受けてセンターでは「絆プロジェクト」を開始した。「星空のもと、家族・地域の絆を強めよう」をテーマに、プラネタリウムや天文台などで星を見ることによって家族の絆・地域の絆を強めていく、星の力を地域の再生に繋げるプロジェクトだ。
福島市子どもの夢を育む施設 こむこむ
プラネタリウムに大きな被害こそなかったものの、建物全体の被害が大きく修理・再オープンに時間を要した。7月16日に迎えた再オープンでは、オリジナルのプラネタリウム新番組を公開。プラネタリウムでは今後もさらにオリジナル番組を投入するほか、今まで以上に楽しい企画を展開していくと、スタッフの意気込みは並々ならぬものがある。
原発事故の影響で放射線への不安も大きく、市民が外出を控える傾向にあったためか、来館者は例年より少なくなっている状況だという。しかし屋内活動重視の方針により、学習利用は例年通りの頻度まで戻ったそうだ。安全に屋内活動を展開できる施設なので、ぜひ大勢の方に来てもらいたいとのことである。
郡山市ふれあい科学館 スペースパーク
JR郡山駅前にそびえる地上24階建てビルの20〜24階にあり、地震発生時は大変に大きな揺れに見舞われたが、建物には大きな被害はなかった。プラネタリウムも若干の被害で済んだが点検・修理を徹底し、5月の大型連休から通常運営を再開した。原発事故の影響により、屋内活動が重視されたこともあり、市内のみならず県内の学校団体の受け入れを強化した。
2011年は開館10周年にあたり、震災前からさまざまなイベントを検討していた。中止も含めて検討したが、「市民に親しまれている科学館をいつもどおり楽しんでほしい」「10周年を一緒に祝いたい」という考えから、記念イベントはほぼ予定通り実施し、笑顔あふれるひとときを提供できたとのことだ。子どもたちの笑顔や元気な姿にホッとして、スタッフが反対に元気をもらったという。厳しい状況が続く中で、館のテーマである「宇宙の中の私たち」を多くの方に実感してもらい、「私たちが宇宙の中、地球で生きていることを、様々な視点から見ていただきたい」と、今後も運営に全力で取り組む方針だ。
日立シビックセンター 科学館
地震発生時はリニューアル工事のため休館中。建物、展示物ともに大きな被害はなかったが、設備に被害があり、3月19日に予定していたリニューアルオープンは見送られた。休館期間中は、市内の体育館へ出向いてサイエンスショーや工作、プラネタリウム投影などを行う「移動科学館」を実施。その際、科学館の再オープンを待ちわびている多くの市民から応援メッセージをもらったことがエネルギーとなったとのこと。7月1日にシビックセンター施設が先行して再オープン、7月21日に科学館が再オープンした。大勢の来館者の笑顔に励まされ、本当にうれしく勇気づけられたとスタッフは口をそろえる。
今後はサイエンスショーや工作、実験などソフト面での充実を進めていくと同時に、最新システムとなったプラネタリウムを活用して、これまでにないプログラムの提供と多目的な活用を図っていくとのことだ。
今年1月に開催した探査機「はやぶさ」の帰還カプセル展示には、4日間で約12,500人の入場者があった。日本の技術の高さ、そしてあきらめないことの大事さが、希望の光となって人々の心を照らしたのではないだろうか。
マリンパークなみえ
福島県双葉郡浪江町の「マリンパークなみえ」は、スポーツ施設などとともにプラネタリウムが併設されていた複合施設である。地震の揺れによる被害はなかったが、施設および周辺一帯を津波が直撃し、壊滅的な被害を受けた。さらに福島第一原子力発電所の「20km圏内警戒区域」に指定され、現在に至るまで立入りを厳しく制限されている。館長はじめスタッフは地震の後すぐに高台避難したため難を逃れたが、そのまま町外に避難している状況が続いている。
館長の横山開さんは「施設およびプラネタリウムの早期の復旧・再オープンを目指したいが、まず町の復旧・復興が先であるべきで、残念ながら現状ではそれさえも全く見通しが立っていない」と語る。地元のシンボル的な施設が、復旧の糸口さえつかめない状況で建物のみ取り残されている様子は、やむを得ないとはいえ大変痛ましい。原発事故の早期の収束、浪江町の再興を願ってやまない。
おわりに
未曾有の大震災により被害を受けた天文施設は、程度の差こそあれどこも一時的に休館を余儀なくされた。スタッフや関係者の大変な努力によって復旧・再オープンに漕ぎ着けた施設もある一方で、再開の目処のつかない施設もある。紹介した以外にも、多くの天文台やプラネタリウムが完全な復旧に向けて今なお奮闘している。
そして多くの施設で、再開を待ちわびる市民の声や、寄せられる応援がスタッフの力になっていた。それは紛れもなく、各施設が今まで展開してきた、地域に根ざした活動の賜物である。地域との繋がりは公開天文施設にとって最も大切な財産であること、それを改めて実感した1年であった。
(本記事は「星ナビ」4月号掲載レポートと同内容のものです。)