さそり座に新星が出現
【2012年6月12日 VSOLJニュース(287)】
5月22日(世界時)、さそり座の方向に新星が発見された。ゆっくりとした減光を示すタイプの古典新星であると考えられる。
VSOLJニュースより(287)
さそり座やいて座、へびつかい座といった私たちの銀河系の中心方向に見える星座には、これまで多数の新星が発見されています。今年に入ってからも、へびつかい座に2個、いて座に1個の新星が既に発見されましたが、今度はさそり座に現れました。
この新星は、重力マイクロレンズ現象(注)の探査グループ「MOA」(Microlensing Observations in Astrophysics:宇宙物理マイクロレンズ観測)が、5月22.80日(世界時、以下同様)に18.5等級の重力マイクロレンズ候補天体「MOA 2012 BLG-320」として発見したものです。MOAは日本・ニュージーランド共同のプロジェクトで、ニュージーランド南島マウントジョン天文台で大小マゼラン雲方向と銀河系中心方向の膨大な数の星の明るさを観測し、重力マイクロレンズ現象の探査を行っています。この天体の位置は以下のとおりです。さそり座の明るい散開星団M7から北に2度ほどの位置になります。
赤経 17時50分53.90秒 赤緯 -32度37分20.5 秒(2000.0年分点) さそり座の新星の周辺星図
MOAグループの観測によると、この天体の増光前の明るさは19〜19.5等でしたが、5月14〜16日の間にゆっくりと増光を始め、5月24日以降には急速な増光を示すようになりました。6月1.77日から2.55日の間にはさらに劇的な増光を示し、17等ほどだったこの天体は6月3.33日には11等にまで明るくなりました。また、5月28日から31日の間の観測では、周期1.6時間、振幅0.1等ほどの変動がみられたことも報告されています。このような急速な増光を受けて、MOAとmicroFUN(Microlensing Follow-Up Network:マイクロレンズ現象追跡ネットワーク)は、より詳細な観測を行いました。
6月4.08日にチリにある「VLT」(超大型望遠鏡)で行われた分光観測によると、この天体のスペクトルには、はくちょう座P型プロファイルを示す水素のバルマー系列や、一階電離した鉄、中性酸素の強い輝線がみられ、HαとHβ輝線の幅はおよそ秒速800kmに相当することが判明しました。このようなスペクトルの特徴から、この天体は比較的ゆっくりとした減光を示すタイプの古典新星であると考えられます。
6月7.29日のチリのセロ・トロロの1.3m望遠鏡の観測や、CBETでの発見公表後にVSOLJメーリングリストに報告された茨城県の清田誠一郎さんの観測では、Vバンドでは11等台、Iバンドでは9等台半ばで、まだゆっくりと明るくなっているようです。
この新星のように、新星爆発によるガスの膨張速度が遅く、ゆっくりとした減光を示す新星の中には、極大付近で複数回の増光を示したり、ダスト形成による深い一時的な減光を示すものがあることが知られており、今後の明るさやスペクトルの変化が注目されます。
注:「重力マイクロレンズ現象」 手前を通過する天体の重力によって光が曲げられることで、向こう側にある天体が一時的に増光したように見える現象。
さそり座の新星の位置
この天体を天文シミュレーションソフトウェア「ステラナビゲータ」で表示して位置を確認できます。ご利用の方は、ステラナビゲータを起動後まず「ツール」メニューから「データ更新」を行い、新天体データを取得してください。
また、新しいデータや番組を入手できる「コンテンツ・ライブラリ」では、新星をわかりやすく×印で表示するための「新星(マークで表示)」ファイルも公開しています。あわせてお楽しみください。