超新星爆発を起こして姿を消した黄色超巨星
【2013年4月9日 カブリIPMU】
りょうけん座の「子持ち銀河」M51に2011年に現れた超新星は、爆発前はどのような天体だったのだろうか。同じ位置にあった黄色超巨星が姿を消したことが観測で確認され、同天体が超新星爆発を起こしたとする理論モデルが正しかったことが証明された。
夜空に輝く星のうち大質量のものは、あるとき自分自身の質量を支えきれなくなって、急激につぶれて大爆発を起こすことがある。「重力崩壊型超新星爆発」と呼ばれる現象だ。超新星爆発を引き起こす星の性質や爆発の多様性の起源を追究することは、宇宙物理学において重要な課題となっている。
これまで、重力崩壊型超新星爆発を起こすほど大きな質量の星は、爆発の直前には赤色超巨星(進化段階の末期にある、大きく膨れ上がった低温の星)か、青色コンパクト星(ウォルフ・ライエ星:明るさが太陽の10万倍程度、表面温度が数万から10万Kに達している高温の恒星)に進化していると考えられてきた。
しかし、2011年6月にりょうけん座の銀河M51(通称「子持ち銀河」)に出現した超新星SN2011dhは様子が違っていた。ハッブル宇宙望遠鏡で撮影されていた超新星爆発前の画像を解析したところ、超新星爆発が起こった場所に、星の進化の途中であり超新星爆発を起こさないはずの黄色超巨星(スペクトル型がF型〜G型の薄黄色ないし黄色く輝く超巨星)があったのが見つかり、議論が巻き起こった。
研究者の中には、早期の光学観測や電波観測に基づいて、爆発した星は暗くて見えない青色コンパクト星であり、見つかった黄色超巨星は爆発した星の伴星もしくは超新星とは無関係で、地球からは偶然同じ場所に見えていたと考える者もいた。これらの場合、超新星の光が収まった後には、再び黄色超巨星が観測されると予想される。
一方、カブリIPMUのメリーナ・バーステン(Melina Bersten)特任研究員らのチームは、初期の光度曲線を流体力学的計算によってモデル化する理論研究により、爆発した星が黄色超巨星であるとした時のみ、観測された光度曲線をよく再現することをつきとめていた。
また、2つの大質量の星がひじょうに接近した連星系の進化を計算し、黄色超巨星に成長して爆発する場合があることを見つけ出した。さらに同チームはこの計算結果から、超新星の光が収まった後には、黄色超巨星は観測されず、伴星の青色コンパクト星が観測されることを予測した(参照:2012/10/4「黄色超巨星が超新星爆発を起こすシナリオを解明」) 。
そして2013年3月、ハッブル宇宙望遠鏡による観測から、超新星の場所が爆発前にあった黄色超巨星の明るさより暗くなっていること、すなわち黄色超巨星が確かになくなってしまっているということが報告された。黄色超巨星が消えてしまうというバーステンさんらの予測がついに観測によって証明されたのである。
黄色超巨星の爆発が証明されたことによって、パズルの最後の一片として残されたのは、連星のモデルから予測される、黄色超巨星の伴星であった星を発見することだ。
同チームの計算によると、黄色超巨星が爆発した時点で、伴星は大質量の青色の星に進化している。この星は表面温度が高いため主に紫外線領域の光を発していて、爆発前の可視光領域の観測では黄色超巨星の明るさに隠されていたと考えられる。
しかし近い将来、超新星爆発の光がじゅうぶんに暗くなった後であれば、暗い伴星でも観測可能になると予想される。バーステンさんらの研究グループでは2014年にハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡を用いて観測を行い、提唱した超新星爆発メカニズムのモデルの最終的な検証を行うことを提案している。