15年前に発見された矮新星がスーパーアウトバースト
【2013年5月13日 VSOLJニュース(298)】
15年前に発見された矮新星「へび座QZ」が、長期間の増光現象「スーパーアウトバースト」を起こしている様子が今年3月から観測された。推測どおりのタイプの天体であることが確認されたが、その後異例の再増光も示しており、今後の解明が待たれる。
VSOLJニュースより(298)
矮新星(注)は、新星や超新星と比べて大きなニュースになることが少ない天体ではありますが、まだまだ謎に包まれており捜索家の方の手による新たな天体の発見、あるいは既知の天体の増光の発見が研究の進歩に重要な手がかりとなります。
へび座QZは、1998年12月に愛知県の長谷田勝美(はせだかつみ)さんが撮影した捜索フィルムの中に増光しているところが写っているのを発見され、新変光星HadV04(長谷田氏の発見した4番目の変光星という意味)として報告された天体です。おそらく矮新星だろうと考えられましたが、その後静穏時の対応天体がどの星であるかよくわかっていない時期が続きました。2001年の分光観測で対応する天体が特定され、この天体が軌道周期120分の連星系による矮新星であることが判明しました。また一般的に矮新星は、その軌道周期から伴星のスペクトル型(連星のパートナーがどのような星か)をある程度推測できるという特徴がありますが、この系は軌道周期から推測されるよりはるかに高温の伴星を持っていることも判明しました。
軌道周期が120分ということから、この系は矮新星の中の「おおぐま座SU型矮新星」(注)に属することが予想されました。このタイプの矮新星は通常のアウトバーストの他にスーパーアウトバーストと呼ばれる明るく長い増光を示すことが知られており、極大が12等台と矮新星としては明るいということもあって多くのモニター観測がなされてきました。しかしへび座QZではいくつかのノーマルアウトバーストが観測されたものの、スーパーアウトバーストは観測されることがありませんでした。
最初の発見から15年が経過した2013年3月11.028日、長らく待たれたへび座QZのスーパーアウトバーストがついに観測されました。ロシアのサーベイ観測プロジェクト「MASTER」で発見され、報告された光度は11.64等(CCDノーフィルター)でした。その後の観測によりスーパーハンプ(軌道周期よりやや長い周期での光度の変動)もとらえられ、この系がおおぐま座SU型矮新星であることが改めて確かめられました。
スーパーアウトバーストはその後20日にわたって続いた後いったん減光しましたが、興味深いことにその後2回の再増光が観測されました。このような複数回の再増光は軌道周期がひじょうに短い系では珍しくありませんが、へび座QZのように比較的長い軌道周期の系では普通見られない現象です。このような現象が見られる理由はまだ明らかになっていませんが、この系の伴星は軌道周期から推測される値にくらべて低い質量を持つことも明らかにされており、特異な伴星を持っていることがこのような異例の現象と関係があるのかもしれません。
このような伴星を持つ系は矮新星が作られる過程の違いに関係があるのではないかと言われており、今回のへび座QZのスーパーアウトバーストとそれに続く再増光は矮新星の生成・進化の過程について知る上での重要な鍵となることでしょう。
編注1:「矮新星」 近接連星系の円盤上にガスが降り積もり、円盤の温度が急上昇することで明るくなる天体。一般的に矮新星はこのようなアウトバーストを間欠的に繰り返すことが知られている。
編注2:「おおぐま座SU型矮新星」 矮新星の中でも軌道周期の短い系で、すぐに暗くなるノーマルアウトバーストと、1〜2週間以上極大光度を保つスーパーアウトバーストの2種類のアウトバーストを示す系を指す。スーパーアウトバーストの間にノーマルアウトバーストが数回見られてまたスーパーアウトバーストが起こる、というのが一般的。