今年10月、サイディングスプリング彗星が火星に大接近
【2014年1月29日 NASA】
今年10月、サイディングスプリング彗星(C/2013 A1)が火星に約14万kmの距離まで大接近する。火星探査機が間近で彗星をとらえる大チャンスだが、彗星塵に襲われるかもしれないピンチでもある。関係者らは観測と危機回避の両方について、万全の準備を進めている。
欧州の探査機「ロゼッタ」による史上初の彗星着陸探査が予定される2014年後半、地球を遠く離れた探査機が彗星を間近でとらえる機会がもう1つ訪れる。サイディングスプリング彗星(C/2013 A1)の火星大接近だ。
この彗星は豪サイディングスプリング天文台で2013年1月3日に発見されたもので、今回初めて太陽系中心にやってくるオールト雲起源の彗星である。2014年10月25日の近日点通過(太陽最接近)でも火星軌道付近どまりで、地上から肉眼で見える明るさにはならない。
だが特筆すべきは火星との最接近距離で、近日点通過直前の10月19日にわずか14万km前後まで近づく。地球から月までの平均距離が38万kmであることを考えると、その近さがわかるだろう(注1)。
この絶好の機会に、火星に滞在中の探査機を用いた観測の準備が進められている。NASAの探査機「マーズ・リコナサンス・オービター」(MRO)の高解像度カメラ「HiRISE」では彗星核を数十ピクセル分でとらえ、彗星核の形状や自転のようす、領域ごとの色の濃淡を調べることができると予測される(注2)。「キュリオシティ」や「オポチュニティ」などの探査車が彗星の塵由来の流星を観測することもできるが、最接近の時間帯はほぼ昼側にあたるので難しいかもしれない。
また、火星に降り注ぐ塵粒子によって上層大気があたためられてふくらむ、ダストストームに似た効果が起こる可能性も注目される。
一方、彗星塵が探査機に与えるダメージも心配だ。サイディングスプリング彗星の公転方向は火星と逆なので(画像2枚目)、もし塵が探査機にぶつかるようなことがあれば、その相対速度は通常の流星塵よりはるかに速く、秒速56kmにもなる。地上の探査車については火星の薄い大気が護ってくれるが、上空の周回機については深刻な影響を与えかねない。
取るべき対策としては、(1)もっとも危険な時間帯に探査機が火星の裏側にいるようにすること、そして(2)もっともダメージを受けやすい重要機器がさらされないような方向を向くことが挙げられる。(1)については、探査機の位置を調整するための軌道修正噴射は、早ければ早いほど少ない燃料で済む。また(2)については、機器を保護するような方向を向くと、その間は太陽電池パネルや地球との通信アンテナといった重要な機器もあさっての方向に向ける必要があるかもしれない。こうしたことから、早いうちの入念な準備が行われているのだ。
これらの準備が功を奏すか、あるいは杞憂に終わるかは、今年4月から5月にかけての彗星核の活動レベルにかかっている。この時期は彗星核の水の氷が蒸発するエリアに到達するころで、水分とともに噴き出した塵が10月の最接近時に火星を襲うことになるという。
注1:彗星の接近距離 近年もっとも地球に接近した彗星の1つ、1996年の百武彗星(C/1996 B2)はおよそ1500万kmの距離まで地球に近づいて大彗星となった。
注2:火星探査機の彗星撮影 HiRISEカメラは昨年のアイソン彗星(C/2012 S1)も撮影したが、彗星がじゅうぶん明るくならず、また今回の80倍の距離があったため、写った核は1ピクセルにも満たなかった。