ビッグバン直後に、なぜ宇宙は崩壊しなかったか

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素粒子物理学の標準理論は、なぜヒッグス粒子の生成によってビッグバン後に宇宙が不安定となり崩壊しなかったのかについて、答えを出せていない。その謎については、未知の物理が働いたからだといった理論が複数考えだされているが、答えは意外にシンプルな説明で得られるという研究成果が発表された。

【2014年11月19日 Imperial College London

スイス・ジュネーヴ郊外の欧州原子核研究機構(CERN)でヒッグス粒子が発見されたのは、2012年(発見確定は2013年)のことだ。ヒッグス粒子が発見されたということは、加速膨張する初期宇宙でヒッグス粒子が作られたことによって宇宙が不安定になり、崩壊が引き起こされたはずであることを示す。だが現実として宇宙は崩壊していない。これはなぜなのだろうか。

その理由については知られざる未知の物理が働いたという説がいくつか唱えられてきたが、今回ヨーロッパの国際研究チームが、「時空の曲率(つまり重力)によって安定性が得られたため」というとてもシンプルな解決案を発表した。エネルギーがどのように変化するかを考慮に入れ、ヒッグス粒子と重力との相互作用を研究した結果、わずかな相互作用で崩壊をまぬがれるにはじゅうぶんと判明したのだという。

「素粒子物理の標準モデルにおいて未知のパラメータである、ヒッグス粒子と重力の相互作用について研究しました。このパラメータは粒子加速器による実験では測れないレベルなのですが、インフレーションの最中にヒッグス粒子が引き起こす不安定性には大きな影響を与えます。比較的小さな値であっても、新しい物理法則や現象を考えることなく、この宇宙が生き残れたことを説明するのにじゅうぶんなのです」(英・インペリアル・カレッジ・ロンドンのArttu Rajantieさん)。

研究チームでは、今後得られる宇宙マイクロ波背景放射や重力波の観測データから、この相互作用をより詳細に明らかにし、初期宇宙の進化にどのような影響を及ぼしたのかを解き明かす計画だ。これが可能になれば「粒子物理学の標準理論の最後の未知数が得られることになり、ひいては、私たちすべての存在に関する基本的な謎の答えに迫ることができるでしょう」とRajantieさんは期待している。

天文衛星「プランク」による宇宙マイクロ波背景放射全天マップ
天文衛星「プランク」による宇宙マイクロ波背景放射全天マップ(提供:ESA and the Planck Collaboration)