宇宙の歴史を左右する、ダークマターの分布解明のカギ
【2015年1月5日 カブリIPMU】
銀河が網の目のように連なる「宇宙の大規模構造」は、謎の重力源「ダークマター(暗黒物質)」が集まった領域に、原子などの通常の物質が重力で引き寄せられ集まることで星や銀河が作られ、進化してきたものと考えられている。この大規模構造の形成進化を解明するうえでは、銀河や銀河団の内部および周囲のダークマターがどのように分布し進化するのかを把握することが必要となる。
カブリIPMUの斎藤俊さんと奥村哲平さんらの研究で、こうした進化のシミュレーションを行う際に従来は無視されていた、銀河団よりはるかに大きなスケールの周囲環境からの潮汐力が重要な影響を及ぼすことがわかった。研究では、宇宙の大規模構造形成のシミュレーションから周囲の環境の効果を抜き出す方法を新たに開発して用い、またその効果が理論的考察から予測されるものとよく一致することが示されている。
この成果により、宇宙のダークマターの分布をより正確に推定できるようになった。この方法はすでに「BOSSプロジェクト」の銀河分布の解析で実際に使用されはじめており、今後ダークエネルギー(暗黒エネルギー)の性質の理解やニュートリノの総質量の測定などを通して、宇宙の歴史の解明につながることが期待される。
〈参照〉
- カブリIPMU: 暗黒物質による宇宙大規模構造の複雑に絡み合う重力進化
- Physical Review D: Understanding higher-order nonlocal halo bias at large scales by combining the power spectrum with the bispectrum
〈関連リンク〉
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