塵の繭から出現、宇宙で羽ばたく蝶
【2015年6月12日 ヨーロッパ南天天文台】
南米チリのヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTにより、約200光年彼方の恒星「とも座L2」がとらえられた。とも座L2は赤色巨星としては地球に最も近いものの一つで、一生の終わりを迎えようとしている老いた星だ。
新たな装置を搭載し、大気の揺らぎの影響を大きく減らす「極限補償光学」を使った可視光観測を行うことで、VLTはハッブル宇宙望遠鏡の3倍も鮮明な画像を取得できる。明るい光源の近くに位置するかすかな天体やその構造が詳しく見えるようになったおかげで、とも座L2星を取り巻く円盤状の塵が驚くほど詳細にとらえられた。
塵の円盤は、太陽から木星間の距離より少し遠い、中心星から約9億kmのあたりから始まっているようだ。外側に向かって広がっており、中心星を取り囲んで対称な、漏斗に似た形をしている。さらに、とも座L2星から約3億km(太陽・地球間の約2倍)の距離に2つ目の光源が観測され、とも座L2星よりも少し軽い赤色巨星の伴星と考えられている。
ゆっくりと星の一生を終えつつある、大量の塵に囲まれている、そして伴星があるという3要素は、とも座L2星が双極星雲を形成する条件を備えていることを意味している。宇宙に浮かぶこのサナギから羽ばたく蝶のような姿をした星雲が実際に誕生するかどうかは確実ではないものの、円盤の上下方向に円錐構造が見つかるなどの観測結果もあり、蝶のような惑星状星雲が誕生する可能性は高いようだ。
〈参照〉
- ヨーロッパ南天天文台: A Celestial Butterfly Emerges from its Dusty Cocoon - SPHERE reveals earliest stage of planetary nebula formation
- Astronomy & Astrophysics: The dust disk and companion of the nearby AGB star L2 Puppis. SPHERE/ZIMPOL polarimetric imaging at visible wavelengths 論文
〈関連リンク〉
- ヨーロッパ南天天文台(ESO): http://www.eso.org/
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー: 惑星状星雲
〈関連ニュース〉
- 2014/03/12 - 宇宙で羽ばたく蝶
- 2013/10/30 - お化けのような惑星状星雲たち
- 2013/09/09 - 天の川銀河中心の双極星雲、広がる方向に不思議な一致
- 2002/09/30 - 惑星状星雲の構造形成の謎に迫る(NAOニュース)
関連記事
- 2023/08/07 JWSTがとらえたリング星雲
- 2021/09/21 星から惑星状星雲へ、進化の最終段階に入った「宇宙の噴水」
- 2020/10/14 銀河の歴史を語る、周縁部の惑星状星雲たち
- 2020/09/25 丸い星が丸くない惑星状星雲を作る理由
- 2020/09/17 スーパーチャンドラセカール超新星は「星の中」で起こる爆発か
- 2020/03/10 ほんの60年前にジェットを噴出して変身し始めた老齢の星
- 2020/02/21 減光とともに形も変わったベテルギウス
- 2020/02/10 連星系で作られた美しいガスの広がり
- 2018/10/29 惑星状星雲の中心に3時間周期の連星
- 2018/08/21 裏返しの惑星状星雲
- 2018/05/23 あり星雲からの珍しいレーザー放射
- 2018/05/14 50億年後、太陽が死ぬと何が起こるのか
- 2017/10/03 土星状星雲の不思議な構造
- 2017/06/12 宇宙で最も低温の天体、原始惑星状星雲「ブーメラン星雲」
- 2017/02/06 太陽のような軽い星の最期の姿「ひょうたん星雲」
- 2016/10/11 赤色巨星から放たれる高温で巨大なキャノンボール
- 2016/09/16 瞬く間に生まれ変わったアカエイ星雲の中心星
- 2015/08/31 カラフルな蝶の羽 ツインジェット星雲の輝き
- 2015/07/01 数十億年かけて渦巻銀河を飲み込んだ巨大楕円銀河M87
- 2015/03/04 若い宇宙の早熟な銀河 131億年前の銀河に塵