宇宙に満ちる謎の赤外線放射の起源をアルマで解明

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アルマ望遠鏡が史上最も暗いミリ波天体の検出に成功し、これらの天体からの赤外線がこれまで謎だった宇宙赤外線背景放射の起源であることを明らかにした。暗いミリ波天体のうち約60%は既知の遠方銀河であったが、残る約40%は正体不明の新しいタイプの天体の可能性がある。

【2016年3月14日 アルマ望遠鏡

宇宙を観測すると星や銀河以外の場所は漆黒の闇に包まれているように見えるが、実際には、宇宙背景放射と呼ばれる弱い光(電磁波)がどの方向からも一様に届いている。

宇宙背景放射には、可視光線(Cosmic Optical Background; COB)、マイクロ波(- Microwave -; CMB)、赤外線(- Infrared -; CIB)の主要な3つの成分がある。COBは宇宙に存在する銀河中の星が起源であり、CMBはビックバン直後の宇宙の熱いガスが放った光であるとわかっているが、CIBについてはこれまで正体がわかっていなかった。

未知のCIB起源を解明するため、東京大学宇宙線研究所の藤本征史さんと大内正己さんをはじめとする研究チームは、約900日間に及ぶアルマ望遠鏡の公開データをくまなく調べた。さらに、背景天体が重力レンズ効果で増光されることを利用して、これまで検出することができなかった、より暗い天体を網羅する探査を行った。「CIBの起源は、宇宙から届く主要なエネルギーにおけるミッシングピースとなっていました。あらゆる手を尽くしてこの起源に迫ろうと、膨大なデータ解析に励んだのです」(藤本さん)。

モヤモヤとしたCIBが個別の天体に分解された様子のイメージイラスト
モヤモヤとしたCIBが個別の天体に分解された様子のイメージイラスト(提供:NAOJ)

調査の結果、研究チームは133個の暗い天体を発見した。その中には、これまで発見されていたものより5倍も暗い天体も含まれている。その明るさと数を足し合わせると、CIBのほぼ全てに相当することがわかった。

さらに研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡の観測データと照らし合わせ、アルマ望遠鏡で見つかった暗い天体(以下「暗いアルマ天体」と呼ぶ)の正体に迫った。その結果、約60%の「暗いアルマ天体」は、これまでの赤外線観測でとらえられていた遠方銀河であった。

暗いアルマ天体(赤等高線)の正体
すばる望遠鏡の観測(カラー画像)により明らかになった、暗いアルマ天体(赤等高線)の正体。アルマ望遠鏡では、光赤外線で観測される銀河に含まれる塵からの放射をとらえていると考えられる(提供:NAOJ, Fujimoto et al.)

「60%の暗いアルマ天体の正体はわかりましたが、残りの40%の正体はまだわかっていません。おそらく塵に覆われた銀河だと思います。非常に暗いため、質量が小さな銀河でしょう。そうすると、質量の小さい銀河に多くの塵が含まれていることになります。逆に、これまでの研究で知られている銀河は、質量が小さいと塵が少ないのです。つまり、40%の天体は、常識的に考えるとおかしな銀河です。今回の観測は、これまでの常識に合わない銀河が遠方の宇宙にたくさんある可能性を示唆しているのかもしれません。今後の観測で明らかにしていきたいです」(大内さん)。