晩期星周囲のガスから放射されるメーザーの複雑な形状を鮮明に撮影
【2016年6月9日 国立天文台VERA】
恒星の寿命は数千万年から数十億年に及ぶが、その終末期のわずか数千年のうちに大量の物質を周囲の星間空間にまき散らすことが知られている。このようなガス流中に見られるメーザー放射(分子からのマイクロ波)は、数百~数千km離れた複数の電波望遠鏡を用いたVLBI(Very Long Baseline Interferometry、超長基線電波干渉計)による観測で高解像度で撮像できるが、大掛かりな観測を何度も連続して実施することはできていなかった。
近年、日本と韓国それぞれのVLBI専用電波望遠鏡群を組み合わせた共同VLBI観測網「KaVA」により、連続撮像を実行するための準備が進められている。その一環として、うお座WX星に見られるSiO(一酸化ケイ素)メーザーの撮像観測が行われた。うお座WX星は約1900光年彼方に位置する晩期星で、660日周期で変光しており、星から吹き出した物質が周囲を取り巻いている。
観測では、短時間でじゅうぶんな画質が得られるか、また異なる波長のメーザー放射像が合成可能かどうかが試された。その結果、2種類のSiOメーザー放射の精密な強度分布が得られ、うお座WX星を取り巻くようなリング状の分布が鮮明に描き出された。
さらに、2種類のメーザー放射の分布がとても似ており、お互いにほぼ近接して光っていることもわかった。この類似した分布は、星の周期的な明るさの変化に伴って少しずつ変化するはずであり、そうした変化を追跡できる性能をKaVAが持っていることが実証された。
メーザー放射は特殊な物理条件(ガスの密度・温度・メーザー放射をする分子の割合)でのみ実現するもので、今回の2種類のメーザー放射も必要な温度が大きく異なるはずである。それらがほぼ同じ部分で見られることが観測で示されており、この条件を満たす仕組みを説明する物理解釈モデルに非常に強い制限が与えられる。
KaVAによって星の最終進化における物質放出の観測的研究が大きく発展すると期待される。研究グループではアルマ望遠鏡との共同連続撮像でメーザー以外の電波放射も観測し、星周縁のダイナミックな全貌を解明することを目指している。
〈参照〉
- 国立天文台VERA: 日韓共同VLBI観測網本格運用開始 ― うお座WX星周囲に見られる一酸化珪素メーザーの高画質2色撮像に成功 ―
- The Astrophysical Journal: SiO Masers around WX Psc Mapped with the KVN and VERA Array (KaVA) 論文
〈関連リンク〉
- 国立天文台VERA: http://veraserver.mtk.nao.ac.jp/
- KaVA: http://kava.kasi.re.kr/
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