5月26日の夕方から宵にかけて皆既月食が起こり、日本の広い範囲で月食の過程の大部分が見られます。日本で皆既月食が見られるのは2018年7月以来、約3年ぶりです。
高度はあまり高くなりませんが、低空だけに月の色や大きさが印象的に感じられそうです。部分食も含めて、ぜひ観察や撮影をしてみましょう。
目次
月食の見え方
全過程は月の出のころから22時前まで、
皆既食は20時11分~26分のわずか15分間
今回の月食では18時45分に満月が地球の影(本影)に入って月が欠け始めます(部分食の開始)。このとき、北海道西部~中部地方より西の地域ではまだ月が昇ってきていないので、部分食の始まりは見られません。この地域では部分食開始後に、一部が欠けた月が昇ってくることになり、このような状態を「月出帯食(げっしゅつたいしょく)」と呼びます。また東側の地域でも、部分食が始まった時には月は非常に低いところにあります。
その後、だんだん高くなっていく月を地球の影が覆い、暗い部分が次第に広がっていきます。そして部分食開始から約1時間30分後の20時11分に月全体が地球の影に入り、皆既食の状態となります。この皆既状態は20時26分までしか続かないので、皆既月食のハイライトである「赤みを帯びた満月」が見られるのはわずか15分弱しかありません。
20時26分に皆既食が終了すると、月は明るさを取り戻していきます。そして約1時間30分後の21時52分、部分食も終了し、白く丸い満月が南東の空に輝くようになります。
- 時刻の出典:NASA Eclipse Web Site
※ΔTの値を69sとして再計算しています - 地球の影の大きさをどう見積もるかにより、食の開始、終了時刻は異なります。たとえば国立天文台 暦計算室では影をNASAより大きめに見積もっており、開始は早く、終了は遅く(つまり食の時間が長く)なっています。
- 部分食の前後には「半影食」(›› 解説)という食が起こり、月がわずかに暗くなりますが、眼視ではわかりにくいかもしれません。
全国どこでも同時に起こり、どこでも低い
月食は、月が見える場所であればどこでも同時に起こります。日食のように観察地によって時刻が変わるということはなく、全国どこでも(海外でも)同じタイミングで始まって終わります。
ただし、同じ時刻であっても月が見える方位や高度は異なります。前述のとおり、西の地域では部分食の開始は地平線の下のため見られません。
また、日本国内ではどこであっても月がかなり低く、皆既食の最中は約15度、月食終了時で25度ほどです。南東方向の空の開け具合や建物の様子などを事前に確認しておきましょう。
継続時間が短い
今回の月食は継続時間が短いことが特徴です(以下、時間はNASAの計算に基づきます)。
まず、皆既食については前述のとおり14.5分しかありません。皆既継続時間が15分未満となるのは次回は2144年4月18日(7.6分)です。前回は2015年4月4日(4.7分)でしたが、その前は1917年12月28日(12.0分)ですので、いかに珍しいかがわかるでしょう。30分未満まで範囲を広げても、20~22世紀の300年間で235回ある皆既月食のうちの15回だけです(最長は2000年7月16日の106.4分)。
日付 | 時間 |
---|---|
2155年 9月11日 | 2.6分 |
2015年 4月 4日 | 4.7分 |
2144年 4月18日 | 7.6分 |
1917年12月28日 | 12.0分 |
2021年 5月26日 | 14.5分 |
また、皆既食の前後の部分食を含めた継続時間(本影食の時間)は187.4分ですが、これは今年11月19日に起こる部分月食の継続時間(208.4分)よりも短いものです。皆既食を含むということは地球の影の中心に近いところを月が通るはずなので継続時間も長くなりそうですが、部分食しか起こらない月食よりも短いのです(20~22世紀の300年間での最長は2000年7月16日の236.0分)。
日付 | 時間 (全体) |
時間 (皆既) |
---|---|---|
2144年 4月18日 | 187.0分 | 7.6分 |
2021年 5月26日 | 187.4分 | 14.5分 |
2102年 7月30日 | 189.5分 | 31.3分 |
1950年 4月 3日 | 189.6分 | 26.9分 |
2068年11月 9日 | 190.2分 | 18.4分 |
継続時間が短いということは楽しめる時間も短いわけなので、いつも以上に集中して眺めてみてください。
月の色に注目
皆既月食の際には満月が赤っぽくなり、この色はよく「赤銅色」と形容されます。
月が赤銅色になるのは、地球の大気を通った太陽光のうち赤い成分のほうが月に届きやすいためです(›› 解説)。大気の状態によって届く光が変化するため、月の色は月食ごと異なり、明るいオレンジ色や暗い茶色のように見えることがあります。
また、地球の影には濃淡があり、今回は影の端のほうを月が通るため、全体としては明るい月食になりそうです。この濃淡があることで、部分食の時だけでなく皆既中も月の色や明るさは変化します。皆既時間は15分と短いですが、注目してみましょう。
さらに今回の月食の場合(日本から見る場合)、月の高度がかなり低いため、月から地球に届く光も地球の大気の影響を大きく受けます。月食ではない普段の月でも昇りたての時には、大気の影響により暗く赤っぽく見えることがあります。月食と低空という2つの要因により月がどのような色合いになるか楽しみです。
また、今回の月食では薄明終了よりも前に皆既食が終わります(日本の場合/小笠原諸島を除く)。すると、とくに月食の前半では、青さが残る空の中で欠けた月を見ることになります。月の色の印象は背景となる空の色にも影響されるので、意識してみましょう。
当夜の月は、赤く輝くさそり座の1等星アンタレスと並んでいます。赤い天体の共演という観点でも楽しみです。
スーパームーン皆既月食
一年に12~13回見える満月のうちで最も大きく見える満月のことを「スーパームーン」と呼ぶことがあります。今回の皆既月食の満月は2021年で最大なので、いわば「スーパームーンの皆既月食」となります。
※「スーパームーン」は天文学的な定義のない言葉ですが、この特集記事の中では「満月のうち、満月(望)の瞬間における地球~月の距離が、一年のうちで最も小さい(=地球の中心に最も近い)もの」を指す語とします。
今年最も小さい12月19日の満月と比べると直径は14%、面積では30%大きいのですが、画像のように横に並べて比べなければ、その差はわかりにくいでしょう。また、低いところにある月は大きく感じられるので、月食中の満月を見て「なるほど、スーパームーンだ」と思うかもしれませんが、これは錯覚です(実際には低い月よりも高く昇った月のほうが観測地点からの距離が近いので、高い月のほうがわずかに大きく見えますが、これも気づくのは困難です)。
スーパームーンと月食のタイミングが重なることは比較的珍しく、前回は2015年9月28日(皆既月食、日本からは見えず)でしたが、次回は2033年10月8日(皆既月食)まで起こりません。月食の満月が近く大きいからといって特別なことが起こるわけでも見えるわけでもありませんが、少し意識して観察してみると面白いかもしれません。
※ちなみに半月後の6月10日には北極海方面で金環日食が起こります。楕円軌道で公転する月が今回の月食時に地球に最も近づいているということは、半月後の日食時には最も遠い付近にあるということになり、月の見かけサイズが小さくなります。皆既日食ではなく金環日食となる原因(の一つ)です。
月食を見る、撮る
観察のポイント
月の色や形が変化していく様子は肉眼でもよく見えるので、月食観察に特別な機材はいりません。ふだん月を見ているのと同じように、空を見上げるだけで月食を楽しめます。
ただし、「月の模様や変化をじっくり眺めたい」という場合には、やはり双眼鏡や天体望遠鏡が必要になります。アストロアーツのオンラインショップで様々なグッズを取り揃えているので、ぜひチェックしてみてください。
- 車の往来や足元をよく確認するなど、安全にじゅうぶん注意しましょう。
- 子供だけで観察したり、少人数で暗いところに行ったりしないようにしましょう。
- 私有地に立ち入ったり大騒ぎしたりせず、ルールやマナーを守りましょう。
- 新型コロナウイルス感染症対策(人同士の間隔を空ける、機材をこまめに消毒するなど)もしっかりと行ってください。
上級者向け情報:7等星の食
月食中に、さそり座の6.6等級の恒星が月に隠される現象(恒星食)が起こり、東北地方より南の地域で見られます。20時前後に星が隠され、21時前に再び現れます。詳しくは「星ナビ」2021年5月号(31ページ)や、「星空年鑑 2021」(55ページ)を参照してください。
観望会やインターネット中継
公開天文台や科学館などで開催される観望会(観察会、観測会)では、詳しい解説を聞いたり参加者同士で体験を共有したりしながら月食を楽しむことができます。望遠鏡で赤い月を大きく見せてもらえるかもしれません。お近くのイベント情報は、全国プラネタリウム&公開天文台情報ページ「パオナビ」などで検索してみてください。
※新型コロナウイルス感染症対策として、事前申し込みの必要や参加人数の制限などがあるかもしれません。詳しくは施設やイベント主催者などにご確認ください。
残念ながら当日曇ってしまったり外に出られなかったりして見られない場合には、インターネットのウェブ中継などで楽しむ方法もあります。複数地点の中継を見ると、月食はどこでも同時に起こることも実感できるでしょう。
- インターネット中継リンク集(情報とりまとめ:日本公開天文台協会/ページ最下部)
- ライブ中継一覧(情報とりまとめ:天文リフレクションズ)
- ウェザーニューズ
撮影のポイント
月や月食をきれいに撮影するコツは、露出やシャッター速度などを調整して取り入れる光の量を上手くコントロールすることです。部分食の時は明るくつぶれやすいので光量を少なくし、反対に皆既食の時は暗すぎるので多くの光を取り入れるようにします。天体写真ギャラリーなどを参考にしてみてください。
- スマートフォンのカメラでも月の色や明るさの変化は写りますので、手軽な記念撮影としてはじゅうぶん楽しめます。
観望会などでは、天体望遠鏡のアイピースにスマートフォンのレンズを当てて拡大撮影をさせてくれる場合もあります。 - コンパクトデジタルカメラでは夜景モードやマニュアルモードに設定し、シャッタースピードを調整しましょう。月が明るいうちは速めの(短い)、皆既中は遅めの(長い)露出にします。オートモードしかない場合は明るい前景を入れて自動的に露出を短くすると、きれいなショットが撮れるかもしれません(部分食の時)。
- 望遠レンズや望遠鏡を取り付けて月を大きく写すなら、デジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラを三脚に載せて撮影するのがおすすめです。必要に応じて赤道儀も使用しましょう。
- 多重露出による月食の連続写真も面白いものです。適当な時間間隔ごとに撮影したものを画像処理ソフトで比較明合成すれば、食の経過を記録した画像が簡単にできあがります。
月食の仕組み
月食が起こる理由
宇宙空間では、太陽に照らされた地球の後ろ側(夜の方向)に地球の影が伸びています。地球の周りを回る月がこの影の中に入ってくると、月面にその影が落ち、月食が起こります。このとき太陽‐地球‐月は一直線に並んでいますから、月食は必ず満月のタイミングで起こります。
しかし反対に、満月のときに毎回月食が起こるわけではありません。これは、月の公転軌道が地球の公転軌道(つまり、地球の影の中心が位置する場所)に対して5度ほど傾いているからです。この傾きのため、満月はたいてい地球の影の上下(黄道面の南北)にずれます。このずれの量が小さいときには地球の影と月が重なるので、月食となって見えるわけです。1年間では2~5回の月食が起こりますが、ほとんどの年は3回以下です(2020年のように半影食しか起こらない年もあります)。
ところで、月食のとき太陽‐地球‐月が一直線に並んでいるということは、月から観察すると太陽と地球が重なって見えるので、月では地球による日食が起こっています。将来、人類が月から日食を見る日が来るかもしれません。
皆既月食の満月が赤くなる理由
皆既食のときには月全体が地球の影の中に入っているので、月に太陽の光が当たらず月がまったく見えなくなってしまうように思います。しかし実際には月を見ることができます。これはなぜでしょうか。
地球の大気の中を太陽光が通過するとき、その光は大気によって曲げられて(屈折して)月まで届き、ほんのりと月を照らします。このとき、光の成分のうち波長の短い青い光は大気に散乱されるためほとんど月まで届きません。一方、波長の長い赤い光は散乱されにくく、月まで届いて月面を照らします。このため、赤っぽい色になるのです。大気中の塵や水蒸気の量によって、非常に濃い茶色や赤色のように見えることもあれば、明るいオレンジ色のように見えることもあります。
また、「ターコイズフリンジ」と呼ばれる欠け際の青い部分が見えることもあります(撮影するとわかりやすくなります)。先ほどの説明とは反対に、赤い光のほうが地球大気のオゾン層に吸収されて届きにくくなり、青い光の一部が月に届いている部分と考えられています。
月食の種類
地球の影の大きさ(見かけの直径)は、月3個分ほどです。この影の中に月が全部入ってしまう状態を「皆既食」と呼び、そのような皆既状態が見られる月食を「皆既月食」と呼びます。月が地球の影の中心に近いところを通れば、皆既状態が長く続くことになりますが、今回は端のほうを通るために15分弱しか続きません。
また、月の一部だけが地球の影に入っている状態は「部分食」で、月食全体を通じて部分食しか見られない月食を「部分月食」と呼びます。皆既食の前後にも部分食が起こっていて、月が地球の影の中を動いていくにつれて白い満月→部分食→皆既食→部分食→白い満月、と変化していきます。
さらに、地球の影(正確には「本影(ほんえい)」)の外側には一回り大きな「半影(はんえい)」が広がっていて、この半影の中に月が入っている状態を「半影食」と呼びます。半影は薄いので、半影食のときに月が暗くなっている様子は眼視では気づきにくいかもしれません。写真で記録するとわかりやすいでしょう。
※観察場所によっては、皆既食中の月は地平線の下にあって見えず、月食全体としては皆既月食だがその場所からは部分月食となる場合もあります。同様に、皆既月食や部分月食であっても場所によっては半影食しか見えない(半影月食となる)こともあります。
近年の主な月食
2017年から2026年まで掲載(半影食のみの現象は含みません)。
日付 | 部分食 皆既食 |
備考 |
---|---|---|
2017年 8月 8日 |
115分 --- |
|
2018年 1月31日 |
203分 76分 |
|
2018年 7月28日 |
235分 103分 |
月没帯食。北海道などでは部分食のみ |
2019年 1月21日 |
197分 62分 |
日本からは見えず(南北アメリカ方面) |
2019年 7月17日 |
178分 --- |
日本では中国地方以西だけで月没帯食(アフリカ、中近東方面) |
2021年 5月26日 |
187分 15分 |
今回。スーパームーン。北海道西部~中部地方以西では月出帯食 |
2021年 11月19日 |
208分 --- |
月出帯食。皆既食が起こらない部分月食としては1901~2200年で最長 |
2022年 5月16日 |
207分 85分 |
日本からは見えない(大西洋方面) |
2022年 11月 8日 |
220分 85分 |
同時に天王星食も起こる |
2023年 10月29日 |
77分 --- |
|
2024年 9月18日 |
63分 --- |
日本からは見えない(大西洋方面) |
2025年 3月14日 |
218分 65分 |
日本からは北日本だけで超低空の月出帯食(南北アメリカ方面) |
2025年 9月 8日 |
209分 82分 |
|
2026年 3月 3日 |
207分 58分 |
中国地方以西では月出帯食 |
2026年 8月28日 |
198分 --- |
日本からは見えない(南北アメリカ方面) |