11月19日の夕方から宵にかけて部分月食が起こります。日本の広い範囲で、月食の過程の大部分が見られます。
部分月食ではあるものの、「ほぼ皆既月食」と呼べるほど深い月食で、月の直径の97%が地球の影に入ります。
高度はあまり高くなりませんが、地上風景と一緒に見たり撮ったりするのには好都合です。事前準備をしっかりして楽しみましょう。
目次
月食の見え方
全過程は月の出のころから20時前まで、
食の最大は18時3分
今回の月食では16時19分に満月が地球の影(本影)に入って月が欠け始めます(部分食の開始)。山形~福島より南の地域では月の出より前の時刻なので、月が昇ってくるときにはすでに欠けていることになります(「月出帯食(げっしゅつたいしょく)」と呼びます)。また北海道などでも月の出の直後なので、欠け始めを見るのは難しいかもしれません。
その後、満月はだんだん高くなり、同時に欠けている部分の割合が大きくなっていきます。そして食開始から約1時間45分後の18時3分に欠けた割合が最も大きくなる「食の最大」となります。食分は0.97で、ほぼ皆既食の状態です。全体的に赤みを帯びた、わずかに一部だけが白い満月が見られるでしょう。
※食分:月の欠け具合を、月の直径に対する地球の本影(月を覆っている部分)の大きさの比で表した数値です。今回の場合、食の最大時に月の直径の97%が地球の影に隠されることになります。皆既食のときには1を超える値で表すこともあり、これは「月全体のさらに外側まで地球の影が覆っている」ことに対応します。
食の最大を過ぎると、月は再び丸い形へと戻っていきます。部分食が終わるのは約1時間45分後の19時47分です。継続時間は208.4分で、部分月食(皆既食が起こらない本影食)としては1901~2200年で最長の現象です。
- 時刻の出典:NASA Eclipse Web Site
- ΔTの値を69sとして再計算しています。
- 国立天文台 暦計算室の予報とは微妙に時刻が異なりますが、これは地球の影の大きさをどう見積もるかの違いによります(国立天文台では最大食分を0.98としていますが、これも同様の理由です)。
地球には大気があるため、影の境界はシャープではありません。開始・終了時刻は目安とみておくのがよいでしょう。
- 部分食の前後には「半影食」(›› 解説)という現象があり、月がわずかに暗くなっていますが、眼視ではわかりにくいかもしれません。
全国どこでも同時に起こり、どこでも低い
月食は、月が見える場所であればどこでも同時に起こります。日食のように観察地によって時刻が変わるということはなく、全国どこでも(日本以外でも)同じタイミングで始まって終わります。
ただし、同じ時刻であっても月が見える方位や高度は異なります。前述のとおり日本の大部分の地域では、月食の始まりは地平線の下のため見られません。
また、日本国内ではどこであっても月がかなり低く、食最大時の高度は約15度、月食終了時で30~35度ほどです。東の空の開け具合や建物の様子などを事前に確認しておきましょう。
月の色に注目/プレアデス星団との共演
今回は部分月食ですが、最大食のころには非常に大きく月が欠けているので、皆既月食のときのように満月が赤っぽく見えそうです(›› 赤っぽくなる理由)。
また、地球の大気の影響(低空の月は赤っぽくなる)や、空の明るさの影響(薄明が残っていると印象が変わる)によっても、月の色が変わります。現象全体を通じて満月の色がどのように変化するか、注目してみましょう。
当夜の月はおうし座にあり、プレアデス星団(すばる)と並んでいます。月が欠けて暗くなる(+薄明の影響が小さくなる)につれて、星団の星々がよく見えるようになることを確かめてみてください。月の下のほうにはおうし座のアルデバランもあり、赤い天体同士の共演も楽しめそうです。
月食を見る、撮る
観察のポイント
月の色や形が変化していく様子は肉眼でもよく見えるので、月食観察に特別な機材はいりません。ふだん月を見ているのと同じように、空を見上げるだけで月食を楽しめます。
ただし、「月の模様や変化をじっくり眺めたい」という場合には、やはり双眼鏡や天体望遠鏡が必要になります。アストロアーツのオンラインショップで様々なグッズを取り揃えているので、ぜひチェックしてみてください。
- 車の往来や足元をよく確認するなど、安全にじゅうぶん注意しましょう。
- 子供だけで観察したり、少人数で暗いところに行ったりしないようにしましょう。
- 私有地に立ち入ったり大騒ぎしたりせず、ルールやマナーを守りましょう。
- 防寒の準備、新型コロナウイルス感染症対策(人同士の間隔を空ける、機材をこまめに消毒するなど)もしっかりと行ってください。
観望会やインターネット中継
公開天文台や科学館などで開催される観望会(観察会、観測会)では、詳しい解説を聞いたり参加者同士で体験を共有したりしながら月食を楽しむことができます。望遠鏡で月を拡大して見せてもらえるかもしれません。お近くのイベント情報は、全国プラネタリウム&公開天文台情報ページ「パオナビ」などで検索してみてください。
※新型コロナウイルス感染症対策として、事前申し込みの必要や参加人数の制限などがあるかもしれません。詳しくは施設やイベント主催者などにご確認ください。
残念ながら当日曇ってしまったり外に出られなかったりして見られない場合には、インターネットのウェブ中継などで楽しむ方法もあります。複数地点の中継を見ると、月食はどこでも同時に起こることも実感できるでしょう。
撮影のポイント
月や月食をきれいに撮影するコツは、露出やシャッター速度などを調整して取り入れる光の量を上手くコントロールすることです。欠けている割合が小さく月が明るい時には光量を少なくし、反対に大きく欠けている時は暗すぎるので多くの光を取り入れるようにします。天体写真ギャラリーなどを参考にしてみてください。
- スマートフォンのカメラでも月の色や明るさの変化は写りますので、手軽な記念撮影としてはじゅうぶん楽しめます。
観望会などでは、天体望遠鏡のアイピースにスマートフォンのレンズを当てて拡大撮影をさせてくれる場合もあります。 - コンパクトデジタルカメラでは夜景モードやマニュアルモードに設定し、シャッタースピードを調整しましょう。月が明るい時には速めの(短い)、暗い時には遅めの(長い)露出にします。オートモードしかない場合は明るい前景を入れると露出を短くできることがあります。
- 望遠レンズや望遠鏡を取り付けて月を大きく写すなら、デジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラを三脚に載せて撮影するのがおすすめです。必要に応じて赤道儀も使用しましょう。
- 多重露出による月食の連続写真も面白いものです。適当な時間間隔ごとに撮影したものを画像処理ソフトで合成すれば、食の経過を記録した画像が簡単にできあがります。
月食の仕組み
月食が起こる理由
宇宙空間では、太陽に照らされた地球の後ろ側(夜の方向)に地球の影が伸びています。地球の周りを回る月がこの影の中に入ってくると、月面にその影が落ち、月食が起こります。このとき太陽‐地球‐月は一直線に並んでいますから、月食は必ず満月のタイミングで起こります。
しかし反対に、満月のときに毎回月食が起こるわけではありません。これは、月の公転軌道が地球の公転軌道(つまり、地球の影の中心が位置する場所)に対して5度ほど傾いているからです。この傾きのため、満月はたいてい地球の影の上下(黄道面の南北)にずれます。このずれの量が小さいときには地球の影と月が重なるので、月食となって見えるわけです。1年間では2~5回の月食が起こりますが、ほとんどの年は3回以下です(2020年のように半影食しか起こらない年もあります)。
月食の時に満月が赤くなる理由
皆既食や深い部分食のときには月全体(または大部分)が地球の影の中に入っているので、月がほとんど見えなくなってしまうように思います。しかし実際には、赤っぽい色になった満月を見ることができます。これはなぜでしょうか。
地球の大気の中を太陽光が通過するとき、その光は大気によって曲げられて(屈折して)月まで届き、ほんのりと月を照らします。このとき、光の成分のうち波長の短い青い光は大気に散乱されるためほとんど月まで届きません。一方、波長の長い赤い光は散乱されにくく、月まで届いて月面を照らします。このため、月は真っ暗になることはなく、赤っぽい色に見えるのです。大気中の塵や水蒸気の量によって、非常に濃い茶色や赤色のように見えることもあれば、明るいオレンジ色のように見えることもあります。
また、「ターコイズフリンジ」と呼ばれる欠け際の青い部分が見えることもあります(撮影するとわかりやすくなります)。先ほどの説明とは反対に、赤い光のほうが地球大気のオゾン層に吸収されて届きにくくなり、青い光の一部が月に届いている部分と考えられています(詳しくは「星ナビ」2021年11月号参照)。
月食の種類
地球の影の大きさ(見かけの直径)は、月3個分ほどです。この影の中に月が全部入ってしまう状態を「皆既食」と呼び、そのような皆既状態が見られる月食を「皆既月食」と呼びます。月が地球の影の中心に近いところを通れば、皆既状態が長く続くことになりますが、今年5月26日に起こった皆既月食では皆既継続時間がわずか15分ほどしかありませんでした。
また、月の一部だけが地球の影に入っている状態は「部分食」で、月食全体を通じて部分食しか見られない月食を「部分月食」と呼びます。今回の月食はこのタイプです。皆既月食の時にも、月が地球の影の中を動いていくにつれて白い満月→部分食→皆既食→部分食→白い満月、と変化していきます。
さらに、地球の影(正確には「本影(ほんえい)」)の外側には一回り大きな「半影(はんえい)」が広がっていて、この半影の中に月が入っている状態を「半影食」と呼びます。半影は薄いので、半影食のときに月が暗くなっている様子は眼視では気づきにくいかもしれません。写真で記録するとわかりやすいでしょう。
※月食全体としては部分月食でも、観察場所によっては部分食中の月が地平線の下にあって見えないために、その場所からは半影食しか見えない(半影月食となる)こともあります。同様に、月食全体としては皆既月食でも場所によっては部分食や半影食しか見えない(部分月食や半影月食として見える)場合もあります。
近年の主な月食
2017年から2026年まで掲載(半影食のみの現象は含みません)。
日付 | 部分食 皆既食 |
備考 |
---|---|---|
2017年 8月 8日 |
115分 --- |
|
2018年 1月31日 |
203分 76分 |
|
2018年 7月28日 |
235分 103分 |
月没帯食。北海道などでは部分食のみ |
2019年 1月21日 |
197分 62分 |
日本からは見えず(南北アメリカ方面) |
2019年 7月17日 |
178分 --- |
日本では中国地方以西だけで月没帯食(アフリカ、中近東方面) |
2021年 5月26日 |
187分 15分 |
スーパームーン。北海道西部~中部地方以西では月出帯食 |
2021年 11月19日 |
208分 --- |
今回。山形~福島以南では月出帯食。皆既食が起こらない部分月食としては1901~2200年で最長 |
2022年 5月16日 |
207分 85分 |
日本からは見えない(大西洋方面) |
2022年 11月 8日 |
220分 85分 |
同時に天王星食も起こる |
2023年 10月29日 |
77分 --- |
|
2024年 9月18日 |
63分 --- |
日本からは見えない(大西洋方面) |
2025年 3月14日 |
218分 65分 |
日本からは北日本だけで超低空の月出帯食(南北アメリカ方面) |
2025年 9月 8日 |
209分 82分 |
|
2026年 3月 3日 |
207分 58分 |
中国地方以西では月出帯食 |
2026年 8月28日 |
198分 --- |
日本からは見えない(南北アメリカ方面) |
地球による日食
月食のとき太陽‐地球‐月が一直線に並んでいるということは、月から観察すると太陽と地球が重なって見えるので、月では地球による日食が起こっています。将来、人類が月から日食を見る日が来るかもしれません。
ところで今回の月食は、今年5月26日に起こった皆既月食のほぼ半年後の現象です。この間に地球が太陽を半周公転したことにより、満月(=太陽の反対に見える月)が位置する星座も天球上の反対の星座になります。5月の月食はさそり座で、今回はおうし座という具合です。
このとき、満月から見た地球の位置する星座もちょうど入れ替わることになります。月食中の月から見ると、5月にはおうし座方向に見えた地球(と太陽)が、今回はさそり座方向に見えるという具合です。地球・月・太陽の位置関係や天体の動きを想像してみてください。