月は古くから人々に親しまれている身近な天体です。とくに天保暦(旧暦)八月十五日の月は「中秋の名月」として有名で、お月見をする習慣があります。
2024年は9月17日が「中秋の名月」の日で、日付の上では満月の1日前ですが、見た目はほぼ満月です。澄んだ夜空に浮かぶ真ん丸い名月を眺めてみましょう。
目次
今年の名月は満月の1日前
お月見といえば「9月の満月」と思われがちですが、今年2024年の場合、中秋の名月の日は9月17日で、満月の日である9月18日の前日です。このように、中秋の名月は満月とは限りませんし(むしろ満月でないことのほうが多い)、10月にずれ込むこともあります。中秋の名月の日は、どのように決まるのでしょうか。
名月といえば秋
そもそも「中秋の名月」とはなんでしょう。
昔から、秋こそが月を見るのに良い季節とされていました。その理由は、満月の高さと天気です。
夏の太陽は高く、冬は低いことはご存じでしょう。満月は地球から見て太陽の反対側にありますから、夏の満月は低く、冬は高くなります。つまり春か秋の満月が、ちょうど見上げるのに適した高さです。
春と秋とを比べると、「春がすみ」「秋晴れ」という言葉があるように、天気の良さでは断然秋。そこで、秋が月見のシーズンとなったとされています。
その秋(七月~九月)の中で、ちょうど真ん中の日が「中秋」、八月十五日です。そのため、八月十五日の月を「中秋の名月」と呼んで愛でることにしたのです。ちなみに似た言葉の「仲秋」は「八月」を指します(七月は孟秋(初秋)、九月は季秋(晩秋))。
「中秋」八月十五日の決め方
「秋が七月~九月」「中秋の名月は八月十五日」というのは現在の暦ではなく、天保暦(いわゆる「旧暦」)による日付です。現在、正式に旧暦を発表する機関はありませんが、かつての法則と同様に太陽と月の動きを元にして旧暦を計算することは可能です。具体的には「秋分日(太陽が秋分点を通過する日)以前の、一番近い朔(新月)の日を1日目(旧暦八月一日)として、15日目を中秋とする」と決められます。
このようにして旧暦を決めると、現在の暦からおよそ1か月遅れになるので、中秋の名月は9月になることが多いのです。2024年の場合、秋分日は9月22日、直前の朔の日は9月3日ですので、15日目(14日後)の9月17日が中秋となります。
十五夜と満月は、ずれやすい
さて、「十五夜」というのは「新月の日を1日目としたときの15日目の夜」ということですが、この日に満月になるとは限りません。
ある日付が「満月の日」というのは、その日のうちに月が「望」、つまり「地球から見てちょうど太陽の反対方向を通る瞬間を迎える」ことを意味します。「新月の日」も「月がちょうど太陽と同じ方向を通る瞬間(朔)」を含む日です。
新月から新月まで(月の朔望周期)は約29.5日なので、新月から満月までは平均すると約14.8日ということになります。たとえば「1日の23時に朔」だとすると、十五夜は(14日後の)15日となりますが、望は平均的には14.8日後の「16日18時ごろ」なので満月の日は16日になり、1日ずれるわけです。
さらに、月の軌道が楕円であることなど様々な理由で、朔から望までの期間が14.8日からずれることもあります。こうした複合的な理由から、十五夜と満月の日は一致しないことが多くなるのです。
とはいえ「秋の真ん中」は八月十五日なので、たとえ満月とずれていても十五夜こそが中秋の名月。もちろん他の日の月も美しいのですが、とくにこの日には名月を眺めたいものですね。
ちなみに、2024年の場合は9月18日の11時34分が望です(朔からの日数は15.03日)。つまり、「中秋の名月の日」17日の宵から「満月の日」18日の明け方にかけては望の半日ほど前の丸い月が見え、望の瞬間の月は沈んでいるため日本からは見えず、18日の夕方ごろに望から7時間ほど過ぎた丸い月が昇ってくることになります。そう考えると「17日から18日にかけて見える『中秋の名月』は、ほぼ満月」と言えるでしょう。
前後5年ずつの、中秋の名月の日と満月の日(望の時刻)
2021年から2023年は日付が一致。その次に日付が一致するのは2030年です。
年 | 中秋の名月 | 満月の日(望の時刻) |
---|---|---|
2019年 | 09月13日 | 09月14日 13:33 |
2020年 | 10月01日 | 10月02日 06:05 |
2021年 | 09月21日 | 09月21日 08:55 |
2022年 | 09月10日 | 09月10日 18:59 |
2023年 | 09月29日 | 09月29日 18:58 |
2024年 | 09月17日 | 09月18日 11:34 |
---|---|---|
2025年 | 10月06日 | 10月07日 12:48 |
2026年 | 09月25日 | 09月27日 01:49 |
2027年 | 09月15日 | 09月16日 08:03 |
2028年 | 10月03日 | 10月04日 01:25 |
2029年 | 09月22日 | 09月23日 01:29 |
2028年のように日付が変わって1時間程度で望を迎えるような場合、名月と満月は「一晩という区切りで考えれば」一致している(同じ日付ではないが、同じ夜ではある)ことになります。そもそも文化的な観点では、日付の不一致に大きな意味はないので、大らかに楽しみましょう。
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月を見よう
月はとても明るいので、街中でも、少し薄雲があっても、見ることができます。まずは気軽に、日々の生活の中で月を探したり満ち欠けを意識したりしてみましょう。
月の「うさぎ」の模様は肉眼でも見え、双眼鏡を使うと大型のクレーターを見ることもできます。また、月そのものだけでなく、月明かりに照らされた街の風景や色づく雲なども、美しいものです。
さらに詳しく月を観察するなら、やはり天体望遠鏡が一番です。それほど口径が大きくなくても、クレーターや山脈などは驚くほどよく見えるはずです。倍率が高いほど大きく見えますが、大気や地面の揺れの影響を受けやすくなったり、地球の自転に伴って月がすぐに視野から外れたりしてしまいます。月の全体像を眺めるなら50~70倍、一部を拡大して観察するなら100~200倍くらいが適していますが、状況に応じて変えてみましょう。
- クレーターなどの観察は、満月に近いときよりも半月など「欠けた」月のほうが面白いでしょう。地形の横から太陽の光が当たることで影ができ、地形が立体的に見えるからです。とくに欠け際の部分の見え方には、月の魅力が存分に感じられます。
満月に近い時には海の模様や、一部のクレーターから四方に広がるレイ(光条)という模様が見やすくなります。 - 望遠鏡の接眼レンズの部分にスマートフォンなどのカメラを合わせると、手軽に月の写真を撮影できます。
スマートフォン用のアダプターなどを使うと、レンズとカメラの角度を調節したり手振れを防いだりすることができ、撮影しやすくなります。
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いろいろな月の呼び方
ここに挙げるものはいずれも「(自然科学としての)天文学的な用語」ではなく、また「一般に広まった、定着した」とは言えない言葉もあります。身の回りの話題として取り上げるのは(これら以外の呼び方も)自由ですが、いかにも公的、学術的な用語であるかのように誤認させたり、超常的な話題と結び付けて大げさに語られたりすることには気をつけたいものです。
十五夜:芋名月
中秋の名月(十五夜の月)は、芋をお供えすることから「芋名月」とも呼ばれています。
なお、広い意味では十五夜は旧暦八月十五日に限ったことではなく、旧暦の毎月十五日の夜を指す言葉です。
十六夜
十五夜の翌日の月は十六夜(いざよい)と呼ばれます。「いざよう」とは「ためらう」という意味で、前日十五夜の月よりも遅くためらうようにして出てくることからの呼び方です。
南米チリのALMA電波望遠鏡は66台のパラボラアンテナから構成されており、このうち日本が開発した16台には「いざよい」という愛称がつけられています。
立待月、居待月、寝待月、更待月
十六夜以降の月には、順に「十七夜:立待月(たちまちづき)」「十八夜:居待月(いまちづき)」「十九夜:寝待月(ねまちづき)」「二十夜:更待月(ふけまちづき)」の呼び名があります。立待月は「立って待っていると出てくる月」という意味で、その後「座って」「寝て」「さらに夜が更けて」となります。
十三夜:後の月、豆名月、栗名月
十五夜から約1か月後となる旧暦九月十三日の月は「十三夜」「後(のち)の月」と呼ばれており、この日にもお月見をする習慣があります(十五夜と同様、毎月十三日の夜が十三夜ですが、とくに九月十三日を指すことが多いです)。2024年は10月15日です。
豆や栗をお供えすることから「豆名月」「栗名月」とも呼ばれます。
スーパームーン
一年に12~13回見える満月のうちで最も大きく見える満月のことを「スーパームーン」と呼ぶことがあります。2024年の場合は10月17日の宵空の満月がこれに当たります。
天文学的な定義はありませんが(提唱者は占星術師とされています)、「月と地球が最接近するタイミングの前後で、満月(望)もしくは新月(朔)となったとき、その月をスーパームーンと呼ぶ」というのが一つの考え方です。この意味では「タイミングが合えば、当年で2番目の大きさの満月でも」「新月でも」スーパームーンとなりますが、「『満月』のうちで『一番』大きく見えるもの」が、とくに広く話題になるようです。
月は地球の周りを楕円軌道で公転し、地球の中心から月の中心までの距離は約36万kmから40万kmの間で変化します。そのため、満月の距離もそのたびごとに異なります。2024年10月17日の場合、望(満月)の瞬間(20時26分)の月までの距離は35.74万kmで、これが「2024年の満月のなかでは地球に最も近いもの」になります。
※地球と月が最接近するのは9時51分(35.72万km)です。
※最接近の距離も一定ではなく、「近い最接近」と「遠い最接近」があります。2024年の1年間での地球と月の最接近は3月10日16時4分(35.69万km)でした。
アストロアーツでの「スーパームーン」の考え方(言葉の使い方)
科学的な定義がない言葉ですが、アストロアーツでは“「月の近地点通過(月と地球が最接近するタイミング)」と「満月の瞬間」が「12時間(半日)以内」の場合、その前後の夜に見える満月”を指してスーパームーンと表記しています。
※提供記事の場合などは、著者の考えを尊重して(上記基準とは異なっていても)スーパームーンの呼び方を使用することがあります。
- 10月17日は前述のとおり約10.6時間差です。
- 名月翌日の9月18日の満月と地球最接近の時間差は10.8時間ですので、アストロアーツの基準ではこれもスーパームーンと呼べることになりますが、10月の満月のほうが距離、時間差ともに小さいことから、今年はとくに10月17日を指すものとします。
- 日本の国立天文台では「スーパームーン」という言葉を使わず「年間最大の満月」と表現しています。この場合は距離や時間差などに関係なく、毎年必ず1回だけ起こることになります。
- アメリカでは「距離36万km以内の満月」「月の近地点距離を基準として、ある距離範囲内にある満月」などを指してスーパームーンと呼んでいるようです。この場合、一年間で複数の満月がスーパームーンに該当することがあります。
○○ムーン満月
- ブルームーン:1か月の間に2回満月があるとき、その2回目の満月のことを「ブルームーン」と呼ぶことがあります。もともとは「一つの季節の間に4回満月があるときの3回目の満月」を指す言葉だったようですが、現在では「ひと月で2回目の満月」のほうがよく知られています。実際に満月が青く見えるわけではありません。次回は2026年5月31日です。
※「満月や新月の瞬間」は世界共通ですが、そのタイミングを含む日付は場所によって1日前後することがあります。たとえば2026年5月は、日本では2日と31日が満月(の瞬間を含む日)ですが、イギリスでは1日と31日です。
「一つの季節の間に4回満月があるときの3回目の満月」の例は、たとえば2024年8月20日(夏至から秋分までに4回ある満月の3回目)や2027年5月20日(春分から夏至までに4回ある満月の3回目)が該当します。 - ブラッディムーン(ブラッドムーン):「血のように赤い」月。地平線近くにあり地球の大気の影響で赤っぽく見える満月や、深い月食中の赤銅色の満月を指してこのように呼ぶことがあります。
天体写真ギャラリー「月食」:2024年3月25日/2023年10月29日/2023年5月6日/2022年11月8日/2021年11月19日/2021年5月26日/…
- ピンクムーン、ストロベリームーン、…:一部の北米先住民族の間で伝統的に用いられてきた満月の呼び方です。
- 1月:ウルフムーン
- 2月:スノームーン
- 3月:ワーム(虫)ムーン
- 4月:ピンクムーン
- 5月:フラワームーン
- 6月:ストロベリームーン
- 7月:バック(雄鹿)ムーン
- 8月:スタージョン(チョウザメ)ムーン
- 9月:コーンムーン
- 10月:ハンターズ(狩人)ムーン
- 11月:ビーバームーン
- 12月:コールドムーン