40億光年彼方からの超高エネルギーニュートリノ、発生源を同定
素粒子の一種であるニュートリノは、これまでに太陽の中心部や超新星爆発で生じたものが観測されており、天体や現象を理解する上で大きな役割を果たしてきた。2012年には宇宙からの高エネルギーニュートリノが発見され、超高エネルギー宇宙線の起源という謎を探る手がかりとなっているが、その高エネルギーニュートリノの発生源が何であるかは特定されていなかった。
ニュートリノは物質とほとんど作用を起こさないため、観測には工夫が必要となる。南極点のアムンゼン・スコット基地に設置されている「アイスキューブ」(IceCube)は、氷床の中に5160個の検出器を埋め込み、宇宙からのニュートリノが氷の中の水分子とごくまれに反応して放射する「チェレンコフ光」を検出することでニュートリノを観測する施設である。
このアイスキューブが2017年9月22日(世界時)、宇宙ニュートリノ事象「IceCube-170922A」を検出した。千葉大学のグループが中心となって開発したシステムによって、ニュートリノの到来方向が1度角ほどの精度でリアルタイムに求められ、その情報が即座に世界中の天文台に伝えられた。すぐに電磁波でも観測を行うことにより、ニュートリノの発生源やメカニズムの研究につながる可能性がある。
この情報を受け、広島大学を中心とするグループは、ニュートリノがやってきた方向にある7つの「ブレーザー」を割り出し、これらを重点的に観測した。ブレーザーとは、銀河中心の超大質量ブラックホールに物質が流入して輝く活動銀河核の一種で、ニュートリノ発生源と考えられているタイプの天体である。
観測の結果、オリオン座の方向40億光年彼方に位置するブレーザー「TXS 0506+056」が可視光線の波長域で過去の観測に比べて3倍以上増光したことや、9月23日から24日にかけて減光したことが世界に先駆けて明らかになった。
さらに同グループが、NASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」で得られたデータを解析したところ、TXS 0506+056が通常時をはるかに上回る強さのガンマ線を放出していることも明らかになった。TXS 0506+056は2017年4月から活動が活発化し、最大で通常時の約6倍の輝度でガンマ線を放射していたが、IceCube-170922Aはまさにそのガンマ線放射の活発期に検出されたものである。
また、より高いエネルギーのガンマ線に感度がある解像型大気チェレンコフ望遠鏡「MAGIC」の観測でも、このブレーザーから100ギガ電子ボルトを超える非常に高エネルギーのガンマ線が検出された。
こうして今回、史上初めて、アイスキューブが検出した高エネルギーニュートリノ事象と、方角・時刻がともに同期した超高エネルギーガンマ線放射とが同時に観測された。このようなニュートリノ検出とガンマ線の増光がたまたま同時に同じ方向で起こる確率は0.003%と極めて低いことから、一連の出来事はすべてブレーザーTXS 0506+056で起こったものであると考えられる。
本研究により、高エネルギーニュートリノの発生源が初めて同定され、40億光年彼方に位置するブレーザーにおいて超高エネルギー宇宙線の加速が引き起こされていることが初めて明らかになった。この成果は、宇宙の未解明の謎である超高エネルギー宇宙線放射機構の理解に通じる大きな一歩となるものだ。また、ニュートリノと電磁波という多面的な観測によって天体を理解する「マルチメッセンジャー天文学」を大きく進展させるものでもある。
〈参照〉
- 千葉大学大学院理学系研究科・理学部:史上初、宇宙ニュートリノとγ線によるニュートリノ放射源天体の同定に成功
- 広島大学宇宙科学センター:宇宙ニュートリノ放射源天体の同定に成功
- 国立天文台:超巨大ブラックホールの遠吠えが放つニュートリノと電磁波の競演
- UW NEWS:Solving the Mystery of Cosmic Rays
- ヨーロッパ宇宙機関:INTEGRAL joins multi-messenger campaign to study high-energy neutrino source
- NASA:NASA’s Fermi Traces Source of Cosmic Neutrino to Monster Black Hole
- Science:論文
〈関連リンク〉
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