合体目前の超大質量ブラックホール連星
【2022年3月2日 NASA JPL/カリフォルニア工科大学】
ほとんどの銀河の中心部には太陽の数百万倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールが潜んでいると考えられているが、どのようにしてそこまで成長したかは謎に包まれている。ブラックホール同士が衝突合体することで成長するという仮説があるが、超大質量ブラックホールが合体している、あるいは合体目前のところはほとんど観測されていなかった。
これまで知られていた唯一の超大質量ブラックホール同士の近接連星は、公転周期約9年の活動銀河核OJ 287だった。今回、米・カリフォルニア工科大学のSandra O'Neillさんたちの研究チームが新たに発見した「PKS 2131-021」(以下 PKS 2131)のブラックホール連星は、互いの周りをわずか2年で回っている。両者の間隔はOJ 287のペアの10~100分の1で、太陽・冥王星間の約50倍(約3000億km)しかない。
計算によれば、2つの超大質量ブラックホールは重力波を放出しながら徐々に近づき、約1万年以内に合体する運命にある。一般に、2つの超大質量ブラックホールがお互いの重力に引かれ合って回り始めてから衝突合体するまでは約1億年かかると言われている。PKS 2131のペアはその工程を99%以上終えてしまったというわけだ。
みずがめ座の方向、地球から90億光年の距離にあるPKS 2131は、「ブレーザー」と呼ばれるタイプの明るい活動銀河核だ。超大質量ブラックホールが周囲から物質を引き寄せると、その一部はジェットとして噴出するが、ブレーザーはジェットがたまたま地球の方を向いている活動銀河核だと考えられる。
研究チームは1800個のブレーザーを13年間にわたって継続的に電波で観測してきた。その中でもPKS 2131のふるまいは一風変わっていて、電波の強度が規則正しく周期的に変化していた。これは、2つの超大質量ブラックホールが互いを重力で引っ張りながら回っているため、引っ張られているブラックホールから噴出するジェットが前後に行ったり来たりすることで起こっていると考えられる。
観測された変動が周囲の影響による一時的なものでもないことを確認するために、観測チームは過去の観測データを調べた。すると、周期的な変動は2005年までさかのぼれることがわかったが、それ以前の20年間は周期的な変化が消えているように見えた。そのためPKS 2131はもう少しで忘れられるところだったが、1975年から1983年をカバーする貴重な観測記録が見つかり、しかもそこに2005年以降と同じ周期の変動が見つかったことで、PKS 2131に超大質量ブラックホールの連星が存在することが決定的になった。
PKS 2131の周期的変化が一時的に止まったのは、超大質量ブラックホールへの物質の供給に変化があったからだと考えられる。だが停滞の前後で、電波の変動周期が全く同じでグラフがつながっていることは注目に値する。「時計は刻まれ続けていたのです。20年間のギャップを経てもなお周期が安定していたということが、このブレーザーに存在するのが1つの超大質量ブラックホールではなく、互いの周りを回る2つの超大質量ブラックホールであることを強く示唆しています」(カリフォルニア工科大学 Tony Readheadさん)。
〈参照〉
- NASA JPL:Astronomers Find Two Giant Black Holes Spiraling Toward a Collision
- Caltech:Colossal Black Holes Locked in Dance at Heart of Galaxy
- The Astrophysical Journal Letters:The Unanticipated Phenomenology of the Blazar PKS 2131–021: A Unique Supermassive Black Hole Binary Candidate 論文
〈関連リンク〉
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