最大で24桁暗くなる、銀河中心ブラックホール周囲の塵による減光
【2022年9月26日 東京大学】
多くの銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在し、そのブラックホールに大量のガスが流れ込んでいれば、莫大なエネルギーが解放されることで明るく輝く。これを活動銀河核と呼ぶが、活動銀河核の中には可視光線ではさほど明るく見えないものがある。これは、超大質量ブラックホールの周りに塵がドーナツ状に集まった「ダストトーラス」という構造が形成され、光を遮るからだと考えられる。
ただ、実際にダストトーラスにどれだけの塵が存在し、どれだけ光を吸収・散乱しているかを見積もるのは難しい。観測の多くは可視光線で行われてきたが、可視光線は少量の塵でも効率的に減光されてしまうため、実際の減光量は測定不能だった。
東京大学大学院理学系研究科の水越翔一郎さんたちの研究チームは、既存の赤外線観測データを使って活動銀河核中心部における減光量を測定する手法を開発した。超大質量ブラックホールの活動により、活動銀河核の明るさは数年単位で変動する。一方、同じ赤外線でも波長が短いほど塵による減光を大きく受けるので、明るさの変動の幅は小さくなる。そこで、2つの波長の赤外線で活動銀河核を観測し続けたデータから、短い方の波長でどれだけ変動の幅が小さくなったかを調べると、塵による減光量を見積もることができる。
水越さんたちはNASAの赤外線天文衛星NEOWISEの観測データを使い、463個の活動銀河核に対して減光量の測定に成功した。
活動銀河核は、中心部の可視光線放射がダストトーラスに隠されていないもの(1型活動銀河核)とほとんど隠されたもの(2型活動銀河核)に大別される。今回の測定では、2型の塵による減光量は1型に比べて大きい傾向が見られただけでなく、同じ2型でも減光量に幅があり、なかには可視光線波長の明るさが1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1、あるいは10の24乗分の1)になるほどの減光量を示すものもあることがわかった。
これらの活動銀河核はX線でも観測されており、その結果からはブラックホール周囲のガスの量がわかる。赤外線観測とX線観測のデータから、2型活動銀河核の多くではガスの量が予想より高いことも示された。こうした傾向は先行研究でも示唆されていたが、これほどたくさんの活動銀河核について系統的に調べられたのは初めてのことだ。この結果は、ダストトーラスの内側に塵を含まないガス雲が多数存在していると考えれば説明できるという。
NEOWISEが観測した活動銀河のうち、今回の手法を適用できるものは約10万個にもなる見込みだ。研究チームはこれら大量のデータの解析により、ダストトーラスの構造や状態を推定したり、銀河中心ブラックホールの成長と母銀河への影響を理解したりするための手がかりが得られると期待している。
〈参照〉
- 東京大学大学院理学系研究科・理学部:赤外線放射の「鼓動」で探る銀河中心ブラックホールを隠すダストの分布
- MNRAS:Measurement of AGN dust extinction based on the near-infrared flux variability of WISE data 論文
〈関連リンク
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