太陽を見る新たな眼、「FOXSI-3」の軟X線データ公開
【2019年1月21日 国立天文台】
太陽を取り巻くコロナは、100万度以上というきわめて高温で希薄なプラズマからなる大気だ。太陽コロナの中では様々な現象が起こっているが、代表的なものは「太陽フレア」と呼ばれる太陽系最大の爆発現象である。フレアが発生すると周囲の温度は数千万度まで上昇し、プラズマ粒子は光速近くまで加速される。この高エネルギー粒子は太陽風として地球にも飛来し、地球環境に影響を与える。
太陽コロナを研究するためには、太陽から放射されるX線をとらえる必要がある。100万~数千万度の温度を持つコロナはX線を最も強く放射するためだ。しかし、X線は地球の大気に吸収される性質があるため、観測するには気球や観測ロケット、人工衛星を使って宇宙空間に出なければならない。また、X線は通常の鏡やレンズを透過してしまうため、撮像や分光には特殊な望遠鏡やカメラが必要となる。
コロナの性質を詳細に知るためには、X線の空間分布・時間変化・エネルギー分布を知る必要がある。つまり、高いダイナミックレンジ(明るい場所も暗い場所もよく見えること)・高い空間分解能・高い時間分解能・高いエネルギー分解能の観測を実現しなければならない。これまでの太陽観測では、数百万度のプラズマが放射する「軟X線」の波長でこの4つを同時に満たすような観測は行われたことがなかった。たとえば、日本の太陽観測衛星「ようこう」や「ひので」のX線望遠鏡は、空間分解能は高いものの、1枚の画像を撮像するのにかかる時間が長すぎるため、太陽コロナで発生する数十秒〜数分という時間スケールの現象をとらえる撮像分光観測は不可能だった。
国立天文台の成影典之さんと名古屋大学の石川真之介さんは、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)やJAXA宇宙科学研究所の研究者らと共同で、裏面照射CMOSセンサーを採用して1秒間に250枚もの高速度撮影を行うことができる軟X線観測装置「PhoEnIX (Photon Energy Imager in X-rays)」を新たに開発した。昨年9月8日、研究チームはこの装置を日米共同の太陽観測ミッション「FOXSI-3」の観測ロケットに搭載し、軟X線での集光撮像分光観測(光を焦点面に集め、画像を撮り、同時に光子のエネルギー分布も得る観測)を高い時間分解能で行うことに初めて成功した(参照:「太陽観測ロケット「FOXSI-3」、世界初の観測に成功」)。
今回公開された「FOXSI-3」の太陽観測データは、太陽からのX線光子1個1個を検出・測定した世界初の成果だ。「PhoEnIX」の高速度カメラは1枚あたり50個程度のX線光子を検出しており、このX線光子のデータを重ね合わせれば、点描のように太陽の軟X線画像を描くこともできる。
また、「PhoEnIX」カメラで高速連続撮像が可能になったため、10秒というきわめて短い時間スケールでのコロナの時間変化をとらえることにも成功した。さらに、X線光子のエネルギーごとの検出数からコロナのスペクトルも得られた。
研究チームでは今回公開されたデータを使った解析作業を現在進めており、謎の多い太陽コロナの現象について、これから続々と新たな知見が得られることが大いに期待される。
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