大質量星が誕生する領域の化学組成とその進化
【2019年3月14日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所】
太陽の8倍以上の質量を持つ大質量星が誕生する星形成領域の環境や、そこから大質量星が誕生するメカニズムについては、未解明の点が多く残されている。その主な理由は、大質量星形成領域が地球から遠いことと、大質量星は進化が速く一生が短いことだ。
電波望遠鏡で星形成領域を観測して化学組成を調べると、どのような分子雲からどのような進化を経て現在の姿になったかがわかる。しかしこれまで、大質量星形成領域の初期段階の化学組成や分子を用いた有用な進化の指標は確立されていなかった。
そこで米・バージニア大学の谷口琴美さんたちの研究チームは、国立天文台の野辺山45m電波望遠鏡を用いて、将来大質量星が誕生すると考えられる高密度分子雲(星なしコア)と、すでに若い大質量星が付随する高密度分子雲(星ありコア)のサーベイ観測を行った。
その結果、観測した分子の様々な組み合わせの中で、N2H+イオンとシアノアセチレン(HC3N)の柱密度比(視線方向に沿って積算した単位面積当たりの物質量)が、大質量星形成領域の進化の指標として有用であることが示された。この比は、星なしコアから星ありコアにかけて進化が進むにつれて減少する傾向にあり、誕生直後の非常に若い星を見つけるのにも有効と考えられる。
大質量星形成領域の進化につれて柱密度比が減少するという傾向は、太陽程度かそれより軽い中小質量星の形成領域で見られるものとは反対だ。大質量星形成領域では中心星が誕生した直後という早い段階から、星間ダストから昇華してくる分子が、シアノアセチレンの生成やN2H+イオンの破壊など、大質量星を取り巻くガスの中で起こる化学反応に大きな影響を与えることが要因と考えられる。
現在、大質量星の進化と炭素鎖分子(炭素原子が複数連なった分子)の存在量の関係について理論的な研究が進められている。また、太陽より重く大質量星より軽い質量を持つ若い星であるHerbig Ae/Be型星の化学組成を調べるサーベイ観測も野辺山45m望遠鏡で予定されている。こうした研究観測により、中心星の質量や周囲の物理環境が星形成領域の化学組成へ与える影響を調べることができる。ひいては、太陽系がどのような初期条件を持つ分子雲からどのような過程で形成されてきたのかも明らかになっていくだろう。
〈参照〉
- 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所:大質量星が誕生する領域の化学組成とその進化の解明
- The Astrophysical Journal:Survey Observations to Study Chemical Evolution from High-mass Starless Cores to High-mass Protostellar Objects. II. HC3N and N2H+ 論文
〈関連リンク〉
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