超新星の電波再増光が示す連星進化の道筋
【2023年3月6日 アルマ望遠鏡】
質量が大きな恒星は一生の最期に超新星爆発を起こすとされている。恒星の多くは連星を成しているため、大質量星の末期は伴星によってもある程度左右されるはずだ。たとえば、大質量星の表面のガス(星周ガス)が伴星の重力ではぎ取られて連星系外にまき散らされることが考えられる。しかし、そうした相互作用は短期間で起こるため、ガスがまき散らされている瞬間を目撃できる見込みは低い。
超新星爆発で飛び散った星の残骸は、光速の10%にも達する速度で周囲に広がる。この残骸が、爆発前にまき散らされていた星周ガスと衝突すると、「シンクロトロン放射」と呼ばれる電波を放つ。この電波の強度や時間変化から逆算すると、星周ガスの性質を特定でき、ガスを放出した恒星の進化過程を調べることができる。
そこで京都大学の前田啓一さんと大阪大学の道山知成さんたちの研究チームは、くじら座の方向約4700万光年の距離にある渦巻銀河M77で2018年11月に出現した超新星「SN 2018ivc」からの電波を、数年にわたってアルマ望遠鏡で観測した。すると、爆発から200日後に弱まっていた電波が、爆発から1000日後には増光するという珍しい現象が観測された。再増光は爆発の1年後以降に始まったと考えられる。
超新星の再増光はセンチ波であれば過去にいくつか観測例がある。しかし、センチ波におけるシンクロトロン放射の大部分はすぐに衝撃波や星周ガスに吸収されてしまうため、もともと放射された量を正確に知ることが困難だ。それに対して、今回アルマ望遠鏡が初めて再増光を観測したミリ波帯は、吸収が少なく、星周物質の正確な情報を伝えてくれるはずだ。
再増光は爆発の衝撃波が濃い星周ガスに到達したことで発生したと考えられる。その再増光が爆発後1年以上経って生じたということは、超新星爆発の位置から0.1光年ほどの距離に濃いガスが分布していると推測される。これは、超新星爆発の約1500年前に大質量星からのガスのはぎ取りが生じたことを示唆する結果だ。
「大質量星の一生について、連星系を成さない場合や連星の軌道半径が長い場合は、生涯、連星相互作用の影響を受けない『単独星進化』の経路を辿り、軌道半径が短い場合は、爆発のずっと前に連星相互作用を起こして進化最終期では静かな状態で超新星爆発を起こす『連星進化』の経路を辿ると考えられています。その中間の場合については、観測的証拠が見つかっておらず、大質量星の一生についての体系的な理解が欠けた部分、『ミッシングリンク』となっていました。今回の成果は、この部分を埋める、非常に重要な成果です」(前田さん)。
アルマ望遠鏡では、予定されていた観測スケジュールに割り込んで、突発天体現象の観測を行うことができる体制が整えられている。今回、そのような柔軟な運用体制により、天体の変化を時間軸に沿って調べる時間軸天文学が実現した点を道山さんは強調している。「宇宙には、重力波を放出する連星中性子合体、恒星同士の合体現象、新星爆発や恒星の表面爆発など、超新星以外にも様々な突発的爆発現象が存在します。今回の成果は、アルマ望遠鏡がこうした突発現象観測においてユニークな地位を占め得ることを示したものともいえます」(道山さん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:超新星の電波再増光が示す連星進化の道筋
- The Astrophysical Journal Letters:Resurrection of Type IIL Supernova 2018ivc: Implications for a Binary Evolution Sequence Connecting Hydrogen-rich and Hydrogen-poor Progenitors 論文
〈関連リンク〉
- アルマ望遠鏡
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:2018年11月 M77の超新星2018ivc
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