世界初の「自律式」天体観測システム「スマートかなた」

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突発天体現象の追観測において専門家に匹敵する判断と決定を行う、世界初の「自律式」天体観測システム「スマートかなた」が開発され、広島大学「かなた望遠鏡」での観測で成果を挙げている。

【2025年2月25日 広島大学

宇宙では新星や超新星のように、突然爆発的に天体が明るくなる「突発天体現象」がたくさん起こっている。いつどこで発生するかわからない突発天体現象は、毎晩数十~数百もの発見情報が発信されているが、その発信に含まれるのは天体の位置と明るさといった基本情報だけであることがほとんどだ。そのため、現象の正体を明らかにするには、時々刻々と変化する天体の状態を追観測する必要がある。

広島大学宇宙科学センターの口径1.5m「かなた望遠鏡」(東広島市)は突発天体現象の追観測に用いられることがあり、天体の色や時間変動、スペクトルなど複数の種類のデータを取得できる。追観測でどのようなデータを取得すべきかは状況に応じて変わるが、従来は専門家が経験と勘に基づいて取得するデータを決定していた。

かなた望遠鏡
かなた望遠鏡(提供:広島大学リリース、以下同)

同センターの植村誠さんたちの研究チームは、機械学習や人工知能の技術を活用して自律的に判断してデータを取得する観測システム「スマートかなた」を開発した。植村さんたちは従来の意思決定の流れを踏まえ、

  • 「発見直後の限られた情報から暫定的に天体を分類する」ことに機械学習の技術
  • 「分類結果から適切な観測モードを決定する」ことに情報理論の枠組み
  • 「天候などを判断して自動観測を実行する」ことに深層学習

を、それぞれ利用してシステムを構築した。起こった現象の詳しいことがよくわからない状況で、確率論的に適切な判断を下してアクションを決定する「自律式」天体観測システムは、「スマートかなた」が世界初である。

「スマートかなた」稼働前と稼働後の違い
「スマートかなた」稼働前と稼働後の追観測の違い。(上)従来は専門家が情報収集から観測の実行までを行っていため時間がかかっていた。また専門家不在時は貴重なデータを取り逃がしていた。(下)「スマートかなた」では、取得すべきデータの決定を含む一連のプロセスが自動化されている

「スマートかなた」のシステム運用は2023年12月に開始され、これまでに複数の成果を挙げている。2024年3月11日に小嶋正さんがへびつかい座に新天体を発見した際には、発見からわずか1時間30分後に「スマートかなた」が追観測を実施し、新天体が新星であると判断して自動で天体のスペクトルを取得した。このデータから天体が実際に新星であることが確認されたほか、爆発初期の貴重なデータの取得や、スペクトルが短時間で変化する興味深い現象の観測にも成功している。

へびつかい座V4370
新星へびつかい座V4370。(左)爆発前、(右)「スマートかなた」が撮影した爆発直後(提供:(左)Pan-STARRS1サーベイ、(右)広島大学)

また、2024年8月11日には「スマートかなた」が重力マイクロレンズ現象の観測にも成功し、このシステムが専門家による観測計画の意思決定を的確に代替できることが示された。

今後、「スマートかなた」によって、従来観測が難しかった激変星の爆発初期の状態が次々に明らかになると期待される。植村さんたちは他機関の望遠鏡と「 スマートかなた」との連携による、天体観測システムの進化も目指している。

「スマートかなた」のデモ動画の一部(提供:植村さん)

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