変動を見せるもいまだ爆発せず、再帰新星かんむり座T
【2024年7月31日 高橋進さん】
約80年間隔で爆発を起こす再帰新星(反復新星、回帰新星)の「かんむり座T(T CrB)」は、2024年の2月から9月の間で爆発が起こるというSchaeferさんの予報もあり、多くの変光星観測者が毎日熱心な観測を続けています。私の場合は小さな双眼鏡しか手元にありませんので、日々の観測では「〇等級以下でまだ増光は確認できない」といった報告を行っていますが、7月28日の夜は曇り空で観測できずにいました。仕方がないなあとひと眠りした後、夜中の2時くらいに目が覚めてメールを確認します。すると28日の21時ごろに眼視観測者のOさんから変光星のメーリングリストに報告がありました。
「CRBT(かんむり座T)が9.8等になっていました」
これまでの光度はおおよそ10.0等くらいですから、9.8等というとこれはまずまずの変動です。急いで外に出てかんむり座を探しますが、さすがにもう沈んでしまった後です。もう一度メールを見ると熱心な眼視観測者のHさんからの観測報告もあり、こちらでも9.9等となっています。CCD観測者のMさんからも9.96等の報告があり、どうやら間違いなさそうです。念のためにここ数日の平均光度を確認してみます。
- 7月26日 4データ 10.02等
- 7月27日 4データ 10.01等
- 7月28日 3データ 9.89等
これは観測誤差等ではないと思われます。念のためにAAVSO(アメリカ変光星協会)のウェブサイトを見てみましたが、まだ夜になっていない時間帯のせいか、増光に結び付くデータはありません。かんむり座Tは回転楕円体変光によって、周期114日で0.5等くらいの変動があり、今の時期は8月末ごろの極大に向けてゆっくりと明るさを増していく時期ではありますが、それでも今回のように1日で0.1等以上も変化するわけではありません。ともかく観測者の皆さんに、増光の兆候が見られるとメールで呼びかけました。
いよいよ待ちに待った新星爆発が来たのかと、はやる気持ちを抑えつつ、この後の光度変化をシミュレーションしてみました。1946年の爆発時の光度曲線に重ね合わせて、7月28日に爆発を開始したと仮定してこの後の光度変化を計算していきます。こうした予想が先入観になって目測に影響すると良くありませんが、ある程度の予想を持つことで観測がスムーズにいくという一面もあります。ざっと計算した結果をメーリングリストに投稿しました。
まだ増光が確定したわけではありませんが、もし本当だとすると下記のように予想されるでしょう。
・7月28日(日)21時ごろ … およそ9.8等
・7月29日(月)の夜 … 6~7等くらい?
・7月30日(火)の夜 … ほぼ極大(2等台?)
・7月31日(水)の夜 … 極大光度(2等?)
・8月 1日(木)の夜 … そろそろゆっくりと減光モードへ?
・以降 … 2日で1等くらいのスピードで減光へ
いや全然あてにならないかもしれません。観測においては決して予断をもたずに目測をお願いします。
朝になり、他にも観測されている人はないかと確認しましたが、報告はありません。どなたか連続測光をしていないかなあとの思いがよぎります。連続測光とは1分おきの観測を数時間連続して行うもので、お二人ほどが天気さえ良ければほぼ毎晩観測されています。すると7時にIさんから連続測光の報告が届きました。普段は0.1~0.2等くらいの幅に収まっているデータですが、「終始薄雲がありました」というコメントがあり、わりとばらついています。それでもB等級のデータを見ると23時から23時30分くらいの間で0.3等級くらい急激に明るくなっていく様子が見られます。このあたりで増光が始まったのかなと思いながら、その内容を報告しました。
お昼ごろになり、増光が進んでいるならもう(夜を迎えた)ヨーロッパでは大騒ぎになっているのではと思っていましたが、何もそうした情報はありません。世の中はオリンピックでそれどころではないのかもしれないと思いながら、夜になるのを待つことにしました。ところがそこへIさんから「実は25時半まで観測したけれど夜半過ぎのデータは低空のためばらつきがあったので、報告はしませんでした」というメールが届きます。23時30分ごろの急激な増光の後がどうなったのかが気になります。そこで「ばらつきの多いデータでも構いませんので見せていただけませんか」とお願いしました。
Iさんからのデータが届いたのは夕方になってからでした。さっそくグラフにしてみると、23時30分くらいまで増光していた光度曲線は、その後ほぼ横ばいのようです。25時には、かんむり座は西の空でずいぶん低くなっていたはずで、どうしても測光のばらつきは大きくなりますが、光度の上昇がないことは読み取れました。さらに夜になり、各地の観測者の皆さんからの報告が届きますが、いずれも昨夜とあまり変わりのない等級です。昨夜に光度の上昇があったのは確かですが、それ以上の新星爆発には至らないものだったようです。
ただ、この一両日の光度変化は今まで以上に激しいものでした。かんむり座Tで実際に何が起こっているのかは、この光度曲線だけではわかりませんが、平常な状態でないのは確かなようです。Schaeferさんの予報の期限である9月の終わりまで、あと2か月です。かんむり座はだんだんと西の空に傾いてきて、夜半過ぎには沈んでしまいますが、あとしばらく密な観測を、ぜひよろしくお願いいたします。
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