中間質量ブラックホールの決定的証拠をHSTで確認
【2020年4月6日 HubbleSite】
「中間質量ブラックホール」とは、従来知られている「超大質量ブラックホール」と「恒星質量ブラックホール」をつなぐタイプのブラックホールとして存在が予想されながら、決定的な証拠が見つかってない天体である。
超大質量ブラックホールは私たちの天の川銀河を含むあらゆる銀河の中心に存在すると考えられており、太陽の数百万倍から数十億倍の質量を持つ。一方、恒星質量ブラックホールは主に質量が大きな恒星の崩壊によって誕生する天体で、質量は太陽の数倍から数十倍だ。これらのブラックホールは、その重力に引き寄せられた物質が加熱されて放つX線を観測したり、周囲の天体の運動を調べたりすることで存在が確認できる。
中間質量ブラックホールはこの中間、太陽の数千倍から数十万倍程度の質量を持つ天体だが、周りに物質が少なく、超大質量ブラックホールほど重力が強くないために他の恒星や星間物質を引き寄せにくいことから、目立たないのだと考えられる。
そんな中間質量ブラックホールを見つける数少ないチャンスの一つが、ブラックホールが星を飲み込むという比較的珍しい現象を「現行犯」でとらえることだ。米・ニューハンプシャー大学のDacheng Linさんたちは、2006年にNASAのX線天文衛星「チャンドラ」やヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星「XMMニュートン」が強力なX線フレアを検出した、みずがめ座方向のX線源「3XMM J215022.4-055108」(以下「J2150-0551」)が中間質量ブラックホールなのではないかと注目していた(参照:「接近した星をばらばらにした中間質量ブラックホール」)。
J2150-0551のすぐ近くには、地球から約8億光年離れたレンズ状銀河が存在する。検出されたX線が中間質量ブラックホールからのものだとすれば、J2150-0551はこの銀河の外れに位置する星団に存在するものと思われる。超大質量ブラックホールであれば銀河の中心にいるはずなので、この星団は中間質量ブラックホールのようなはぐれ者が潜みそうな場所として妥当だ。だが、これまでの観測からはJ2150-0551が8億光年彼方ではなく、天の川銀河の一角に存在する中性子星である可能性が残されていた。
ハッブル宇宙望遠鏡は2003年にJ2150-0551周辺を撮影したことがあったが、今回Linさんたちはその2倍の露出時間をかけて、より解像度の高い画像を得た。その結果、可視光線で見たJ2150-0551の光は、8億光年離れた位置では半径100光年前後の高密度な星団に相当することがわかった。また、XMMニュートンによる追加観測からも、J2150-0551が放ったX線の変化は、恒星が引き裂かれる現象で放射されうるものと一致していることが確認された。これらのことから、J2150-0551は天の川銀河内の中性子星ではなく、8億光年彼方にある中間質量ブラックホールであると判明した。
このブラックホールの質量は太陽の約5万倍であると見積もられている。従来、中間質量ブラックホールの質量を求めるにはブラックホールによって引き裂かれた星からのX線の明るさを調べていたが、今回はスペクトルの形状を組み合わせるという信頼度の高い手法が採用されている。
これまでの研究で、一般に銀河が大きいほどその中心に位置するブラックホールの質量も大きいことがわかっている。つまり、J2150-0551の中間質量ブラックホールは元々、それに見合ったサイズの矮小銀河の中心核に位置していた可能性がある。その矮小銀河がレンズ状銀河に接近して、重力で破壊されたあとに残ったのが現在の高密度星団なのかもしれない。
中間質量ブラックホールの存在が1つ確認されたことで、まだ多くの中間質量ブラックホールが、すぐ近くを通過する星を飲み込むチャンスをひっそりとうかがっている可能性が出てきた。Linさんは今後も今回の手法を使って中間質量ブラックホール探しを続ける計画だが、果たして超大質量ブラックホールが中間質量ブラックホールの成長した姿なのか、そもそも、どのようにして中間質量ブラックホールが形成されるのか、また、高密度の星団が中間質量ブラックホールの故郷として適した場所なのかなど、まだ多くの謎が残されている。
〈参照〉
- HubbleSite:Hubble Finds Best Evidence for Elusive Mid-Sized Black Hole
- The Astrophysical Journal Letters:Multiwavelength Follow-up of the Hyperluminous Intermediate-mass Black Hole Candidate 3XMM J215022.4-055108 論文
〈関連リンク〉
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