天の川銀河の中心部に過去の大爆発の証拠

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天の川銀河の中心部に存在する分子雲の内部に、超新星爆発約10個分に相当する大爆発の証拠と考えられる複数の球殻状構造が発見された。この構造は太陽数十万個分の質量をもつ巨大星団の存在を示唆するもので、中間質量ブラックホールの「ゆりかご」の候補とみられる。

【2018年3月30日 慶応義塾大学

天の川銀河を含む多くの銀河の中心には、太陽の数百万倍を超える質量をもつ超大質量ブラックホールが存在していると考えられている。その起源は未だ解明されていないが、一つの説として、高密度の星団内における恒星同士の暴走的合体によって形成された「中間質量ブラックホール」がさらに合体を繰り返すことで、銀河の中心に超大質量ブラックホールが形成されるというものがある。このシナリオを検証するためには、中間質量ブラックホールと高密度星団の存在を、銀河中心に近い領域で実際に確認する必要がある。

慶應義塾大学の研究チームはこれまでに、国立天文台野辺山45m電波望遠鏡および国立天文台ASTE 10m望遠鏡を用いた観測結果から、天の川銀河の中心領域に、異常な物理状態と広い速度幅を持つ特異分子雲を4つ発見しており、そのうち3つについて詳しい分析を行ってきた。

今回、同大学の辻本志保さんたちは残りの1つ「L=-1.2°分子雲」について、45m電波望遠鏡と米・ハワイのマウナケア山頂のジェームズ・ クラーク・マックスウェル電波望遠鏡を使って詳しい観測を行った。その結果、観測で取得された一酸化炭素分子の回転スペクトル線の強度分布から、分子雲が直径約50光年の楕円状をしていること、少なくとも5つの膨張する球殻構造を内包すること、超新星爆発約10個分の運動エネルギーを有すること、などが明らかになった。また、膨張球殻構造の大きさと膨張速度から、年齢は約6万年から11万年と算出された。

さらに、最も年齢の若い膨張殻構造の端で一酸化ケイ素分子の回転スペクトル線が検出され、激しい爆発現象がこの分子雲の加速に深く関わっていることが示された。

一酸化炭素の回転スペクトル線強度の広域合成図など
(a)45m電波望遠鏡とASTE 10m望遠鏡で取得された、115GHz/346GHz領域の一酸化炭素の回転スペクトル線強度の広域合成図、(b)ジェームズ・ クラーク・マックスウェル電波望遠鏡で得られた 346GHz領域のL=-1.2°分子雲周辺の一酸化炭素回転スペクトル線積分強度分布、(c)銀経-速度分布、(d)天の川銀河の中心部を上から見た模式図。(b)と(c)内のLS、S1~4は、膨張する5つの球殻状構造を表す(提供:慶応義塾大学リリースページより、以下同)

爆発現象が超新星爆発であると仮定すると、ここでは数万年に1回の頻度で超新星爆発が起こっていることになる。限られた空間領域にこれだけの頻度で超新星爆発が起こるということは、ここに大規模な恒星の集団が存在することを意味しており、その質量は太陽質量の数十万倍に相当する。つまり、L=-1.2°分子雲は天の川銀河の中心部に存在する、中間質量ブラックホールが形成される「ゆりかご」の候補とみられるということになる。2012年に巨大星団の存在が間接的に検出された「L=+1.3°分子雲」に次いで2例目となる、中間質量ブラックホールのゆりかご候補だ。

L=-1.2°分子雲の想像図
内部の巨大星団によって駆動されるL=-1.2°分子雲の想像図

巨大星団が存在するとみられる2つの分子雲は、天の川銀河の中心に対してほぼ対称に位置している。ガスの運動も考えあわせると、両天体が1つの閉じた軌道上にあるという可能性が考えられる。軌道上で数千万年前に爆発的な星形成が起こり、星団中で中間質量ブラックホールが形成され、その後ブラックホールが星団とともに中心核へ落ちていって超大質量ブラックホールの形成・成長に貢献してきたのかもしれない。

2つの星団は存在が示唆されているものの、赤外線など他の波長では全くその姿が見えない。これは、星団中にある星の質量分布が通常とは全く異なっている可能性を示唆しており、中性子星や白色矮星といった恒星進化の「なれの果て」を多く含んでいることも考えられる。大爆発にも、超新星爆発だけでなく中性子星同士の合体などの過程が大きく寄与している可能性もあり、引き続きこれらの特異分子雲の研究が進められることが期待される。

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