ω星団に中間質量ブラックホールが存在する強い証拠を発見

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南天の有名な球状星団「ω星団」の20年にわたる観測から、星団の中心に約8200太陽質量以上の中間質量ブラックホールが存在するとみられることがわかった。

【2024年7月19日 HubbleSite

ブラックホールには、重い星の超新星爆発でできる「恒星質量ブラックホール」と、銀河中心にある「超大質量ブラックホール(SMBH)」がある。恒星質量ブラックホールの質量は太陽の10倍程度、超大質量ブラックホールは太陽の数百万~数十億倍だ。

その他に、太陽質量の数百~数万倍という「中間質量ブラックホール(IMBH)」があると考えられているが、IMBHの候補は数例しか知られていない。IMBHはどのくらい存在するのか、SMBHはIMBHの合体から作られるのか、といった疑問はいまだ未解明で、IMBHはブラックホール進化の「ミッシングリンク」となっている。

独・マックスプランク天文学研究所のMaximilian Häberleさんを中心とする研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)で20年にわたって撮影された画像から、有名な球状星団「ω星団」の中心部にIMBHが存在する証拠を発見した。

ω星団
(左)HSTが撮影したω星団。一辺は9.2分角。(中央)星団中心部の拡大。(右)最も中心に近い部分の拡大。中心の破線で囲まれた位置にブラックホールが存在するとみられる。右下のスケールは0.1光年。画像クリックで表示拡大(提供:ESA/Hubble, NASA, Maximilian Häberle (MPIA))

ω星団(NGC 5139)はケンタウルス座の方向約1万7700光年の距離にあり、天文ファンにも人気の南天の天体だ。暗い場所では満月とほぼ同じ視直径に見え、3.9等の明るさを持つ。約2000年前のプトレマイオスの星表には恒星として記載され、1603年のヨハン・バイエルの星図「ウラノメトリア」では「ケンタウルス座ω」というバイエル符号が与えられた。1677年にエドモンド・ハレーによって星雲状の天体であることが報告され、1830年にジョン・ハーシェルが球状星団であることを確認した。約1000万個の恒星からなり、他の大型の球状星団より10倍も星の数が多く、小型の銀河に匹敵する。

Häberleさんたちは、ω星団に含まれる140万個もの恒星をカタログ化し、その運動を過去のHSTの画像から求めた。この解析の過程で、ω星団の中心部にきわめて高速で運動する星が7個見つかった。

「これらの星は非常に高速で、これほど速く運動していれば星団から逃げ出して二度と戻ってこないはずなのに、星団内にとどまっています。最も可能性の高い説明は、非常に重い天体がこれらの星々を重力で引きつけて星団中心部にとどめている、というものです。それができるほど重い天体はブラックホールしかありません」(Häberleさん)。

Häberleさんたちの計算では、このブラックホールの質量は太陽の8200倍以上と推定されている。まさにIMBHの有力候補だ。

過去の研究でも、ω星団にはIMBHがあることが示唆されてきたが、星団の中心に集中している質量の正体は恒星質量ブラックホールの集団だという可能性もあり、また星団の脱出速度を上回るような高速の星も見つかっていなかったため、IMBHである可能性は低いと考えられていた。

「今回の発見は、ω星団にIMBHが存在するという、現時点で最も直接的な証拠です。これに近い質量を持つブラックホールは数例しかないので、この発見には興奮します。ω星団のブラックホールは地球に近いIMBHの最も良い例になるかもしれません」(独・マックスプランク天文学研究所 Nadine Neumayerさん)。

もし今回の発見が確認されれば、このブラックホールは天の川銀河の中心にあるSMBH「いて座A*」(距離約2万6000光年)よりも近いことになる。

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