球状星団までの距離を誤差3%で高精度に測定
【2018年4月11日 HubbleSite】
数十万から数百万個の星々が集まっている球状星団は、ほとんどが誕生から100億年以上も経っている、非常に年老いた天体だ。天の川銀河では150個ほどの球状星団が見つかっている。
球状星団までの距離を正確に計測できれば、宇宙の年齢を他の方法とは独立に見積もることができる。また、恒星進化のモデルの改良にも役立つ。その距離は従来、星団内の星の明るさや色を、理論モデルや近傍にある星の観測結果と比較して計算されてきた。しかし、計算結果には10%から20%ほども不確実性があった。
米・宇宙望遠鏡科学研究所のTom Brownさんたちの研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)を使った観測により、地球から最も近い球状星団の一つである、さいだん座の方向の「NGC 6397」までの距離を測定した。
Brownさんたちは星団に含まれる星のうち40個について、年周視差を正確に調べた。年周視差とは、地球が太陽の周りを公転する間に、天体の見かけの位置がどれだけ動くかというずれの大きさだ。半年間(地球が太陽を挟んで正反対に動く間)の位置の変化を調べれば、三角測量の原理を使って天体までの距離を正確に求めることができる。
研究チームでは「空間走査(spatial scanning)」という方法を使い、HSTのカメラの1ピクセルの100分の1しかない星団内の星の位置変化を、1ピクセルの3000分の1の精度で計測することに成功した。この方法は、別の距離指標となるケフェイド変光星の年周視差を正確に計測するために考案されたもので、今回の研究ではそれを球状星団の星に適用した。
研究の結果、NGC 6397までの距離は、誤差3%という高精度で7800光年と求められた。また、NGC 6397の年齢が134億歳であることも明らかにされた。
これまでに年周視差の測定により、地球から近い散開星団までの距離が測定されたことはあったが、球状星団の距離が精密に測定されたのは今回が初めてだ。球状星団と散開星団とでは、星の数や年齢、銀河内での分布などが大きく異なる。したがって、それぞれについて正確な距離が測定されることは極めて重要である。
4月下旬には、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」の最新観測データが公開される予定である。HSTとガイアのデータを組み合わせることで、距離の誤差を1%まで減らすことができるだろうと研究者たちは考えている。
〈参照〉
- HubbleSite:Hubble Makes the First Precise Distance Measurement to an Ancient Globular Star Cluster
- The Astrophysical Journal Letters:A High-precision Trigonometric Parallax to an Ancient Metal-poor Globular Cluster 論文
〈関連リンク〉
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