近傍宇宙に存在する、100億年前の遺跡のような銀河

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ハッブル宇宙望遠鏡による観測から、地球から比較的近い距離に位置する銀河「NGC 1277」が100億年前の姿をほぼとどめており、近傍の宇宙に存在するものとしては非常に珍しいことが明らかになった。

【2018年3月15日 HubbleSite

約2億4000万光年彼方に位置する「NGC 1277」は、1000個以上の銀河の集まりである「ペルセウス座銀河団」に属する小さなレンズ状銀河である。この銀河は誕生後、現在の天の川銀河の1000倍も速く星形成活動を行っていたが、ある時突然星形成が止まってしまった。ベビーブーム時代に生まれた星々は年老いて、銀河はどんどん赤くなっていった。

星形成を終えた老齢の赤い銀河は初期宇宙ではよく見られるが、近傍宇宙ではっきりと見つかったのは初めてのことだ。遠方に位置する初期宇宙の銀河はハッブル宇宙望遠鏡による観測でも赤い小さな点にしか見えないが、NGC 1277は(2億光年以上離れているとはいえ)近傍宇宙に位置しているおかげで詳しく調べることができる。観測から、初期宇宙がどんな環境であったのかを知る手がかりが得られるかもしれない。

銀河「NGC 1277」とペルセウス座銀河団
(右上)銀河「NGC 1277」、(背景)ペルセウス座銀河団(提供:NASA, ESA, M. Beasley (Instituto de Astrofisica de Canarias), and P. Kehusmaa)

遺跡のような銀河であるNGC 1277と天の川銀河とを比較すると、含まれる星の数は2倍あるが、銀河の大きさは4分の1しかない。NGC 1277も最初はコンパクトな天体から進化し始めたが、回転花火を思わせるような大きな銀河へと成長するために必要な多くの物質を獲得できなかったようで、実質的に進化が止まってしまっている。こうしたとても古い銀河は、大質量銀河1000個のうち約1個の割合で存在すると考えられているので、古い銀河の発見そのものは驚くべきことではない。単に、NGC 1277が進化に適した時期や場所に存在していなかっただけだと考えられている。

この銀河の状態を示す証拠は、年老いた星で構成される球状星団にある。大質量銀河には、金属量が少なく青く見える球状星団と金属量が多く赤く見える球状星団の両方が存在する傾向にあり、赤い星団は銀河形成の際に作られたもの、青い星団は小さな伴銀河が中心の銀河に飲み込まれる際に外からやってきたものだと考えられている。

NGC 1277の場合、青い球状星団はほとんど存在していない。赤く見える球状星団は、この銀河で星形成がずっと昔に止まったことを示す強い証拠であり、青く見える球状星団が見当たらないのは、NGC 1277は周囲の銀河を飲み込んで成長することがなかったということを示唆している。対照的に、天の川銀河には両方の色の球状星団が合計180個ほど存在している。その理由の一部は、天の川銀河が小銀河を飲み込みながら進化してきたということである。

NGC 1277を取り巻く環境は、天の川銀河とは明らかに異なるものだ。この銀河はペルセウス座銀河団のほぼ中央に位置しているが、時速約300万kmもの高速で移動しているため、他の銀河と合体して星を寄せ集めたり、星形成に必要なガスを取り込んだりすることができない。さらに、銀河団の中心部付近に存在する銀河間ガスは非常に高温のため、ガスが冷えて収縮し星が誕生するということも起こりにくい。

また、NGC 1277の中心には、銀河自体の大きさから考えられるよりもはるかに質量の大きなブラックホールが存在している。このちぐはぐな組み合わせも、超大質量ブラックホールと密度の高い銀河の中心部が一緒に成長し始めたものの、その後外からの銀河へ物質の流入がなかったために星の形成が止まり、それ以上星の数が増えることもなくなったというシナリオを強く支持している。

「当初、この銀河が遺跡のように古いという仮説を信じていませんでした。しかし最終的には、天文学においては予測したものを見つける方がむしろ普通ではないことに気づかされました。宇宙は、私たちが考える以上の驚きを常にもたらし続けます」(スペイン・ラ・ラグーナ大学カナリア天体物理研究所 Michael Beasleyさん)。