星の動きから検出された球状星団中のブラックホール
【2018年1月23日 ヨーロッパ南天天文台】
数万から数百万個の星々がボール状に集まっている球状星団に、太陽の数倍から数十倍ほどの質量を持つ恒星質量ブラックホールが存在するらしいことが、近年の電波観測やX線観測により示唆されている。星々の数が多いことと100億年にも及ぶ星団の年齢から考えると、球状星団では大質量星の爆発後に形成される恒星質量ブラックホールが多数作られてきたと思われるが、星団とブラックホールの関連については謎に包まれている。
独・ゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲンのBenjamin Giesersさんたちの研究チームは、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTに搭載された分光器「MUSE」を使って、ほ座に位置する球状星団「NGC 3201」を調べてきた。そして、星団中の1つの星が非常に奇妙な動きをしていることに気が付いた。時速数十万kmもの速度で地球から見て近づいたり遠ざかったりする動きを167日ごとに繰り返していたのだ。
データの解析から、星の質量は太陽の0.8倍で、この星を振り回している「何か」の質量は太陽の4.36倍と見積もられた。「星は、質量が太陽の4倍以上ある、まったく目に見えない何かの周りを回っていたのです。ほぼ間違いなくブラックホールであるとしか考えられません。星の運動、つまり重力の影響の直接観測によって球状星団にブラックホールが見つかったのは、今回が初めてです」(Giesersさん)。
「この発見は球状星団の形成や、重力波源を理解する上で不可欠となるブラックホールや連星系の進化の理解につながるものです」(Giesersさん)。
〈参照〉
- ヨーロッパ南天天文台:Odd Behaviour of Star Reveals Lonely Black Hole Hiding in Giant Star Cluster
- MNRAS:A detached stellar-mass black hole candidate in the globular cluster NGC 3201 論文
〈関連リンク〉
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