X線分光撮像衛星XRISMの初期科学観測データ公開

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昨年9月に打ち上げられたX線分光撮像衛星「XRISM」が定常運用へ移行し、初期観測結果の一部が公開された。

【2024年3月6日 JAXA

2023年9月7日に小型月着陸実証機「SLIM」と相乗りで打ち上げられたX線分光撮像衛「XRISM」が、衛星本体と搭載機器などの機能確認を完了し、初期機能確認運用から定常運用へ移行した。この定常運用への移行発表に合わせて、2天体の初期科学観測の結果が公開された。

1つ目はXRISMの軟X線分光装置「Resolve」(リゾルブ)で取得された、ペルセウス座銀河団中心部の精細なX線スペクトルだ。この天体は約2億4000万光年の距離にある銀河団で、X線で非常に明るく見える。

ペルセウス座銀河団のX線スペクトル
Resolveで取得されたペルセウス座銀河団のX線スペクトル。右上の囲みは6~7キロ電子ボルトの拡大図。背景画像は銀河団の中心銀河NGC 1275を中心としたX線・可視光線・電波の合成画像(擬似カラー)(提供:JAXA/NASA/Chandra X-ray Center/Institute of Astronomy in Cambridge, UK/A. Fabian et al./NRAO/VLA/G. Taylor/ESA/Hubble Heritage (STScI/AURA)/Univ. of Cambridge)

銀河団内のプラズマの温度や速度を精密に測定すると、銀河団内に存在する暗黒物質の分布や動きに関する情報が得られる。その情報は、銀河団がどのようなプロセスで作られ、今後どのように進化するのかを明らかにするための手がかりになるものだ。

2つ目は軟X線撮像装置「Xtend」(エクステンド)が撮影した、おおかみ座の方向約7000光年の距離に位置する超新星残骸「SN 1006」の画像だ。Xtendの広い視野のおかげで、見かけサイズが満月の直径ほどもある超新星残骸の全体像がすっぽりと収まっている。

超新星残骸SN 1006
超新星残骸「SN 1006」。XtendによるX線画像とDSSの可視光線画像を合成(提供:(X線)JAXA/(可視光線)The Digitized Sky Survey)

この残骸のもとになった超新星爆発が起こった西暦1006年は、紫式部や藤原道長が活躍した時代に当たる。そこから1000年あまりの時をかけて、超新星残骸は直径65光年もの大きな球状の天体へと成長し、現在も秒速5000kmの速さで膨張し続けている。Xtendが取得したデータを利用することで、超新星爆発時の核融合反応で作られた元素の量や残骸が膨張する様子を詳しく調べることができる。

今後の運用では、まず搭載機器の特長を活かす天体観測や、観測精度を高めるための較正・初期性能検証が実施される。その後、世界中からの観測提案に基づいた観測が始まる。XRISMはすでに当初の目標を上回る分光性能をはじめとする優れた機器の性能を達成していて、今後の観測から様々な発見がもたらされると期待される。

「衛星システムと地上システムの初期機能確認を完了し、いよいよ定常運用として科学観測を開始します。ファーストライトでは驚くべき観測性能を目の当たりにしました。これからX線国際天文台として多くの天体を観測して、宇宙の謎に迫りますのでご期待ください」(XRISMプロジェクトマネージャ JAXA宇宙科学研究所 前島弘則さん)。

「いよいよ科学観測が始まります。今年8月ごろからは、世界中の研究者から公募した観測提案に基づいた観測も始める予定です。公開天文台として貢献できる日を心待ちにしています」(XRISMプリンシパルインベスティゲータ(研究主宰者)埼玉大学 田代信さん)。

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