打ち上げから30周年を迎えたハッブル宇宙望遠鏡
【2020年4月27日 HubbleSite】
1990年4月24日、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)はスペースシャトル・ディスカバリー号に搭載されて打ち上げられた。翌25日、HSTはディスカバリー号の貨物室から宇宙空間へと放出され、人類の宇宙観に変革をもたらす新たな「眼」となった。宇宙空間では大気に妨げられることがないため、HSTは紫外線から近赤外線まで、幅広い波長でかつてないほどシャープな画像を得ることができる。
HSTは現代の天文学に革命をもたらし続けている。これは研究者にとってだけでなく、一般の人々を宇宙の探索・発見の旅へといざなう役割を果たしているという意味でもそうだ。HSTは天文学をあらゆる年齢の人々にとって身近な存在にしてくれた。HSTが届けてくれた象徴的な画像の数々は、私たちの宇宙や時間・空間についての認識を再定義するものとなった。
「ハッブルは近傍の惑星から私たちがこれまでに目にした最も遠い銀河に至るまで、宇宙について驚くべき洞察をもたらしてくれました。30年前、これほど大きな望遠鏡を打ち上げることは革命的なことでした。天文学の原動力となって現在も画期的な成果を届けています。HSTの素晴らしい画像は数十年にわたって人々の想像力をかき立て、これからも人類を鼓舞し続けることでしょう」(NASA副長官 Thomas Zurbuchenさん)。
この30年でHSTによって得られた重要な科学成果としては以下のようなものが挙げられる。
- 宇宙膨張とその加速の度合いを測定
- 超大質量ブラックホールがほぼ全ての銀河中心に存在することを発見
- 太陽系外惑星の大気の特徴を解明
- 太陽系の様々な惑星で生じる気象現象を観測
- 宇宙年齢の97%もの時間をさかのぼり、恒星と銀河の誕生・進化の年代を調査
HSTはこれまでに140万回の観測を行い、そのデータに基づいて各国の研究者が1万7000編以上の論文を査読付き学術誌に投稿している。HSTは歴史上最も多くの成果を挙げた宇宙望遠鏡だと言ってよい。HSTのアーカイブデータは今後も何世代にもわたって天文学研究の源になるだろう。
ハッブルがこれほど長く運用されているのは、1993年から2009年まで、5回にわたってスペースシャトルによる修理ミッションが行われたのも理由の一つである。これらの修理ミッションでは宇宙飛行士が望遠鏡に最新の観測装置や電子機器を取り付けたり、軌道上で修理を行ったりした。HSTは現在計画中の「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」と連携しつつ、2020年代も運用が続けられると期待される。
今回30周年記念として公開された画像は、HSTが30年にわたって観測してきた数多くの星形成領域の中でも最も見栄えのする画像の一つだ。中央の赤色をした星雲(NGC 2014)と左下の青色の小さな星雲(NGC 2020)は、天の川銀河の伴銀河である「大マゼラン雲」の中にある巨大な星形成領域の一部である。地球からの距離は約16万3000光年で、NASAはこの画像に「宇宙の珊瑚礁」と名付けている。
明るい光を放っているNGC 2014の中心部には、太陽の10~20倍の質量を持つ大質量星が集まっている。こうした大質量星は強い恒星風を放出するため、密度の低いガスは吹き飛ばされてしまう。星雲の右側に見える泡状の構造はこうしてできたものだ。また、星雲の左側に向かって放出される恒星風はガスや塵を圧縮し、暗い色のガスからなる「尾根」状の構造を形作っている。こうした大質量星は寿命が数百万年しかなく、寿命が約100億年とされる太陽よりもはるかに短命だ。
NGC 2014の内部の青色の部分は、星からの紫外線で酸素原子が約1万1000℃にまで加熱されて光を放っている領域である。赤色の部分にはこれより温度が低い水素や窒素が存在する。
画面左下に孤立しているように見える青い星雲NGC 2020は、太陽の20万倍も明るい単独星の光によって輝いている。この中心星はウォルフ・ライエ星と呼ばれるタイプの恒星で、外層を激しく放出して中心核がむき出しになっている。星雲の青いガスはこの星から放出された外層の物質だ。
(文:中野太郎)
〈参照〉
- HubbleSite:Hubble Marks 30 Years in Space with Tapestry of Blazing Starbirth
- HubbleSite:Hubble 30th Anniversary HST30周年特設ページ
〈関連リンク〉
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