20個以上に分裂したアトラス彗星をHSTが撮影

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ハッブル宇宙望遠鏡が太陽に近づきつつあるアトラス彗星を撮影した。20個以上の破片に分裂している様子がとらえられている。

【2020年5月8日 HubbleSite

アトラス彗星(C/2019 Y4)は、2019年12月29日に米・ハワイのサーベイ観測プロジェクト「ATLAS(小惑星地球衝突最終警報システム)」によって発見された。

この彗星は今年3月半ばまで急激な増光を続けていたことから、そのまま明るくなれば5月には肉眼彗星となって、過去20年間に現れた大彗星に匹敵するほどの姿を見せると期待されていた。ところがその後、アトラス彗星の増光に急ブレーキがかかり、それどころか減光さえし始めた。研究者は原因について、彗星の核が分裂し始めたか、崩壊しつつあるのではないかと推測した。4月11日にはスイスのアマチュア天文家Jose de Queirozさんがアトラス彗星を撮影し、核が3つほどの破片に分裂している様子をとらえた。

ハッブル宇宙望遠鏡(HST)は4月20日と23日に、地球から約1億4600万kmの距離にあったアトラス彗星を高い解像度で撮影した。20日の画像では約30個、23日の画像では約25個の破片がとらえられている。

アトラス彗星
ハッブル宇宙望遠鏡が4月20日と23日にとらえたアトラス彗星。20~30個の破片に分裂している。画像クリックで表示拡大(提供:NASA, ESA, STScI, and D. Jewitt (UCLA))

「2回の撮影の間に彗星の見た目は大きく変化していて、両方の画像でどの破片がどの破片に対応するのかを決めるのはかなり困難です。太陽光の反射の具合が変わって破片が光ったり消えたりしているのか、それとも時間とともに別の破片が生じているせいなのかはよくわかりません」(米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校 David Jewittさん)。

画像では、彗星核の破片は太陽光に吹き流された塵の尾に包まれている。画像に写っている破片は家くらいのサイズで、分裂する前の彗星核は200m以上(サッカーのフィールド2面分)の大きさだったとみられる。

今回の画像は、彗星の分裂が実は非常にありふれた現象であることを示すもので、彗星が消滅する主なメカニズムはこうした分裂現象かもしれないと研究者は考えている。しかし、彗星核の分裂は予測できず、また急速に進むため、なぜ分裂が起こるのかという原因はほとんどわかっていない。HSTで得られた解像度の高い画像は、彗星の崩壊現象の謎を解く新たな手がかりになるかもしれない。

「ほとんどの彗星では分裂した破片は暗すぎて見ることができません。これほどのスケールで分裂が起こるのは10年に1、2度しかなく、実にエキサイティングです」(米・メリーランド大学カレッジパーク校 Quanzhi Yeさん)。

彗星の核が分裂する原因として、核が暖められて氷が気体へと昇華して噴き出すことで、核の自転が加速し、やがてばらばらに分裂するという可能性が考えられる。こうした気体の噴出は彗星核の全体で均等に起こるわけではないため、核を特定の向きにスピンさせるような力が働くと考えられるからだ。

「HSTのデータをさらに分析することで、核の分裂がこうしたメカニズムによるものかどうかがわかるかもしれません。いずれにせよ、HSTで彗星の最期の姿を見ることができたのは非常に特別なことです」(Jewittさん)。

もしアトラス彗星が一部でも生き残っていれば、5月23日に地球から約1億1600万kmの距離を通過する最接近を迎える。その8日後には太陽に約4000万kmの距離まで近づく近日点通過となる。

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