地球の水は星間分子雲の塵からできたのかもしれない

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星間物質を模した有機物の加熱実験で水が大量に生じるという結果が得られた。地球の水の起源が彗星や炭素質小惑星ではない可能性を示すものだ。

【2020年5月19日 北海道大学

地球や火星などに存在している水がどこからやってきたのかについては、現在もよくわかっていない。原始惑星系円盤の中では、太陽から約2.5天文単位(火星軌道と木星軌道の間)の距離を境にして、これより内側では水は気体の状態でしか存在できない(この境界を雪線と呼ぶ)。そのため、地球型惑星の材料にもともと含まれていた水は惑星ができる過程で水蒸気となって散逸してしまったと考えられている。

現在の地球型惑星の水は、後の時代に小天体が大量に衝突したことで持ち込まれたという仮説が提唱されている。しかし、2014年にヨーロッパ宇宙機関の探査機「ロゼッタ」がチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の探査を行った際のデータでは、同彗星に含まれる水は地球の水とは重水素の比率が異なっていることが示されていて、地球の水が彗星に由来するとは考えづらいという見方もある。

また、「はやぶさ2」が探査した小惑星リュウグウのような、炭素質に富んだ「C型小惑星」にも水が比較的多く含まれるため、雪線の外からやってきたC型小惑星の衝突で水がもたらされたという仮説もある。だが、このモデルだと逆に地球型惑星の水が多くなりすぎるという問題が指摘されている。

北海道大学の香内晃さんと桐蔭横浜大学の中野英之さんを中心とする研究チームでは、太陽などの恒星の生まれ故郷である星間分子雲にたくさん含まれている塵の有機物が水の起源として重要ではないかと考えた。星間分子雲の塵には、氷や鉱物と同じくらいの割合で有機物も含まれているが、これまでの惑星形成論では星間有機物の役割はあまり重要視されてこなかった。

星間有機物は、水・一酸化炭素・アンモニアなどの氷に恒星からの紫外線が当たることで作られる。過去の実験から、星間有機物にはヒドロキシ酸やアミド、多環芳香族炭化水素、脂肪酸など、多種多様な有機分子が含まれることがわかっている。そこで研究チームでは、これらの有機分子を混ぜ合わせた模擬的な星間有機物を作り、これを加熱して変化を観察した。

その結果、模擬星間有機物を200℃まで加熱すると2相の有機物に分離し、350℃になると水が生成されることを突き止めた。さらに400℃まで加熱すると有機物が黒くなり、石油のような物質が生じた。

模擬星間有機物の加熱実験
模擬星間有機物を加熱したときの様子を撮影した顕微鏡写真。350℃まで加熱すると水が生成され、400℃に達すると黒い石油ができた(提供:Nakano et al. 2020、以下同)

この黒い生成物の成分を分析したところ、地球上で産出する石油によく似た組成であることが確認された。また、最初の模擬星間有機物の組成を大きく変えても、加熱によって水と石油を生じるという結果は変わらないこともわかった。

模擬星間有機物の加熱実験の結果
(a)実験前の模擬星間有機物。(b)aを400℃まで加熱して得られた物質。上層に黒い石油がたまり、下層には水溶性物質が溶けた液ができた

このような星間有機物は原始惑星系円盤の成分として広く存在していたはずで、しかも水の氷とは違って、雪線より内側の領域でも揮発することなく存在できる。このことから、研究チームでは、こうした星間有機物が地球型惑星の水の起源になりうると考えている。

今回の成果から、これまで考えられてきたような炭素質の天体がなくても、地球の水の起源を説明できるようになるかもしれない。さらに、現在の小惑星や氷衛星の内部に、星間有機物から生じた石油が大量に存在するという可能性も考えられる。

今年の年末には「はやぶさ2」がリュウグウの試料を地球に持ち帰る予定になっている。研究チームのメンバーはこの試料の分析にも携わることになっており、地球型惑星や隕石中に存在する水・有機物の起源解明につながることを期待しているという。

水の供給ルート
惑星の材料物質の分布とそれぞれの天体の形成過程。従来は雪線の外側から彗星や炭素質の小天体が地球に大量に衝突することで水が持ち込まれたと考えられてきた。今回の研究で新たに、雪線の内側にある岩石質の小惑星でも星間有機物が加熱されることで水ができ、これが地球に供給されうることが明らかになった(太い青矢印)(提供:プレスリリースより)

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