惑星が誕生するタイミングをとらえる
【2023年6月30日 アルマ望遠鏡】
太陽程度の質量をもつ星は1億年ほどかけて形成されると考えられている。その際、周囲には惑星系の元となる円盤も形成されるが、円盤は星形成開始から数百万年後に消失してしまう。つまり惑星系はその数百万年の間に形成されると推測されるが、どの段階で作られるのかは、はっきりとしていない。
最近のアルマ望遠鏡を用いた高分解能の観測から、星形成開始から100~1000万年程度経過した若い星の原始惑星系円盤は、塵の集まった部分が同心円状のリングになり、その間にギャップのある構造となっている様子が見えてきた。このギャップは、円盤の物質を掃き集めながら惑星が成長したことで作られたのだと考えられる。そこで、星の形成から100万年が経過したころには、既に惑星系形成がかなり進行しているか、ほぼ完了していると示唆される。
「これらのアルマ望遠鏡の結果を踏まえると、『星形成過程のどの段階で惑星系が形成されるのか』という問いに答えるためには、星形成のより初期段階を調べる必要があります」(台湾中央研究院天文及天文物理研究所 大橋永芳さん)。
そこで大橋さんたちの研究チームは、星形成開始から1~10万年程度の初期段階にある原始星周囲の円盤を対象に、円盤内の塵(惑星の材料)が出す電波をアルマ望遠鏡で観測する大型プログラム「Early Planet Formation in Embedded Disks (eDisk)」を開始した。
これまでにも、原始星周囲の円盤に着目した観測的研究は行われているが、限られた数の天体を個々に調べるにとどまっていた。また、0.1秒角を切るような高い空間分解能の観測もごく一部の天体に限られていた。対してeDiskでは、地球からおよそ650光年以内に位置する、19の原始星を取り巻く円盤を、0.04秒角という非常に高い空間分解能で観測し、円盤の構造を詳細に調べることに成功した。
観測の結果、これらの原始星の円盤は、より進化が進んだ星の原始惑星系円盤とは大きく異なる特徴を示すことが明らかになった。
19天体中、リングやギャップが見られたのは、比較的進化の進んだ数個の原始星周囲の円盤だけだった。しかも、その構造は進化の進んだ原始惑星系円盤のものと比べて非常に淡い。さらに、多くの原始星の周囲では塵が円盤面に集積せず、周りに散らばった状態にあることもわかった。これまでの観測から、より進化の進んだ星系の円盤は厚みが薄いことがわかっており、塵の沈殿が進んで惑星形成の準備ができている段階にあると考えられている。
「今回の結果から、惑星系形成は星形成開始後10万年から100万年ぐらいにかけて、急速に進むと考えられます」(米国立電波天文台 John Tobinさん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:惑星はいつ誕生するのか~最初期段階を捉える
- The Astrophysical Journal:論文
- Early Planet Formation in Embedded Disks (eDisk). I. Overview of the Program and First Results
- Early Planet Formation in Embedded Disks (eDisk). II. Limited Dust Settling and Prominent Snow Surfaces in the Edge-on Class I Disk IRAS 04302+2247
- Early Planet Formation in Embedded Disks (eDisk). III. A First High-resolution View of Submillimeter Continuum and Molecular Line Emission toward the Class 0 Protostar L1527 IRS
- Early Planet Formation in Embedded Disks (eDisk). IV. The Ringed and Warped Structure of the Disk around the Class I Protostar L1489 IRS
- Early Planet Formation in Embedded Disks (eDisk). VII. Keplerian Disk, Disk Substructure, and Accretion Streamers in the Class 0 Protostar IRAS 16544-1604 in CB 68
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/12/17 惑星の外側で塵が集まる様子をアルマ望遠鏡で観測
- 2024/10/09 ガス円盤のうねりが示す“原始惑星の時短レシピ”
- 2023/10/10 アルマ望遠鏡が惑星形成の「最初の一歩」をとらえた
- 2023/07/28 巨大惑星に収縮する前の塊、若い星の周囲で発見
- 2023/07/13 塵の塊が衝突するだけでは惑星の種にならない
- 2023/04/03 木星と土星の共鳴が鍵、地球型惑星と小惑星帯形成の統一シナリオ
- 2023/03/23 水蒸気で囲まれた原始星に、太陽系の水が経てきた歴史を見る
- 2023/01/17 原始惑星系円盤の内側に隠れていた大量のガス
- 2022/08/26 原始惑星系円盤の一酸化炭素は氷に隠れていた
- 2022/08/18 原始惑星系円盤の内外で異なる物質組成
- 2022/08/15 形成中の惑星を取り巻く円盤からガスを初検出
- 2022/04/12 太陽系の惑星を急成長させた前線
- 2022/04/08 太陽系と異なるプロセスで形成中の惑星
- 2022/03/11 原始惑星系円盤でジメチルエーテルを初検出
- 2022/01/20 星系への侵入者、原始惑星系円盤を乱す
- 2021/12/22 原始惑星系円盤内のダストが散逸するまでの時間
- 2021/12/16 「天空の降灰」が惑星を咲かせている可能性
- 2021/11/25 塵粒から巨大ガス惑星まで、成長の道筋を解明
- 2021/11/18 移動する惑星が原始惑星系円盤にリングを作る可能性
- 2021/10/25 地球型惑星や水星型惑星の形成につながる中心星の組成