原始惑星系円盤の内側に隠れていた大量のガス
【2023年1月17日 国立天文台】
惑星は、若い恒星を取り巻く「原始惑星系円盤」と呼ばれる円盤の中で形成される。とくに木星のような巨大ガス惑星は、円盤の中のガスを材料として作られる。最終的にガスは惑星に取り込まれるか円盤から外へ流れ出てしまい、太陽系と同様に惑星間にはガスが残らない状態になるはずだ。しかし、その過程を実際の原始惑星系円盤で観測することは難しい。
これまで、原始惑星系円盤に含まれるガスの量は、一酸化炭素が発する電波を観測することで見積もられてきた。一方、ガスの大半を占めているはずの水素は一酸化炭素ほど効率よく電波を放射しないため、測定しにくい。これまでの研究は、少数派である一酸化炭素の水素に対する割合を仮定することで原始惑星系円盤のガス量を計算しているため、推定に大きな誤差があったのだ。
総合研究大学院大学の吉田有宏さんたちの研究チームは、うみへび座TW星の原始惑星系円盤について、アルマ望遠鏡のアーカイブデータを用いて従来の15倍という高感度の画像を作成した。観測したのはやはり一酸化炭素が発する電波だが、感度を高めることでピークの波長だけでなく、スペクトルの広がり方をとらえることに成功している。これにより、一酸化炭素の割合を仮定することなく、水素を含めたガス全体の圧力、さらには密度を計算することができた。
解析の結果、円盤の中心からおよそ7億5000万km(太陽系でいえば木星軌道あたり)より内側の領域には、木星質量の7倍に相当する大量のガスが存在することが明らかになった。過去のうみへび座TW星の観測データからは、この領域より外側ではガスの密度が低いことがわかっており、落差が大きい。
原始惑星系円盤内のガスは、時間とともにゆっくり内側へと移動すると考えられる。うみへび座TW星の場合、ガスの移動速度が急に変化したことで、特定の領域にガスがたまったようだ。こうして惑星系の形成が促進されているのだと示唆される。
うみへび座TW星は誕生から比較的時間が経過しているため、円盤内の惑星形成も終末期にあり、残っているガスは少ないだろうと予測されていた。今回の研究によって、成熟したかに見える原始惑星系円盤の中にも、惑星形成の材料であるガスが豊富に存在することが明らかになった。
今後の研究では同様の手法を他の原始惑星系円盤に適用し、特徴や年齢の異なる円盤内のガスの量を調べ、ガスが失われる過程や惑星系形成の過程を明らかにしたいという。
〈参照〉
- 国立天文台:年を経た惑星工場にも十分な材料
- The Astrophysical Journal Letters:Discovery of Line Pressure Broadening and Direct Constraint on Gas Surface Density in a Protoplanetary Disk 論文
〈関連リンク〉
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