原始惑星系円盤のガスは意外と長持ち
【2021年7月19日 理化学研究所】
恒星の形成はガスと塵からなる分子雲が重力で収縮し始めることで始まる。中心に集まった物質の中から若い星が生まれ、残った物質は星を囲む円盤を形成する。この円盤の中からさらに太陽系のような惑星系が誕生し、最終的に円盤そのものは消えてしまうのだが、消滅までどれだけ時間がかかるのかを巡っては様々な議論がある。
円盤のガスが長く残っていた場合、形成された惑星に影響を与えることが考えられる。たとえば、ガス円盤はその中で回転する惑星の軌道が不安定になるのを抑制する効果がある。太陽系では原始惑星の軌道が乱れたことで、地球がジャイアントインパクト(巨大衝突)に見舞われ、その破片の中から月が誕生した。月は地球の自転変化を抑えることで、生命に適した安定した環境の形成に一役買ったという見方もあるので、円盤の寿命は惑星系で誕生する生命の運命にまで影響を与える重要な要素と言えそうだ。
最近の研究から、原始惑星系円盤の寿命は300万~600万年と見積もられている。その後に残されるのは、惑星の形成時に余った塵や天体の衝突で飛び散った岩石の破片からなる「デブリ円盤」だけだという見方が強まっていた。ところが最新鋭の観測機器によって、そんなデブリ円盤の中には豊富な量のガスを残しているものもあることがわかってきた。これは「ガスリッチデブリ円盤」と呼ばれ、現在までに20例ほど見つかっている。
ガスリッチデブリ円盤のガスの起源については、原始惑星系円盤のガスが生き残ったとする「始原ガス説」と、天体の衝突で塵だけでなくガスも発生したとする「二次ガス説」が唱えられている。このうち二次ガス説については研究が多く理論的な裏付けもあるが、始原ガス説はほとんど検証されてこなかった。
これに対し、理化学研究所の仲谷崚平さんたちの研究グループは、原始惑星系円盤からガスが散逸するプロセスをシミュレーションしてガスが従来の見積もり以上に長生きしうることを示し、初めて始原ガス説を肯定する結果を発表した。
原始惑星系円盤からガスを奪う要素はいくつかあるが、円盤形成から数百万年以上経っている場合には、光蒸発という効果が支配的であることがわかっている。光蒸発とは、円盤表面のガスが中心星からの紫外線やX線にエネルギーをもらうことで、星と円盤の重力を振り切って飛び出してしまう現象だ。
ガスリッチデブリ円盤は太陽質量の2倍前後である中間質量星で多く見つかっていることから、シミュレーションでは中心星の質量を太陽の2倍とし、原始惑星系円盤の質量を様々に変化させながら光蒸発の影響を調べた。その結果、星からの光で最も寄与が大きいのは極紫外線(紫外線の中でも波長が短くてX線に近いもの)であること、そして円盤質量が太陽質量の約0.1%以下(地球質量の約300倍以下)だと、光蒸発によるガス流出率が100万年あたり地球3個分程度と、かなり低い値になることが明らかになった。この流出率であれば円盤の寿命は数千万年~1億年で、従来の予想の10倍にもなる。
一方、中心星の質量を太陽と同じに設定すると、流出率は20~30倍に増えた。これは生まれたての太陽質量星が極紫外線を多く放つことを反映している。中間質量星が放つ極紫外線は、表層での吸収などによって抑えられているのだ。ガスリッチデブリ円盤が太陽質量星よりも中間質量星で多く見つかる理由はこれまで謎とされていたが、今回の研究で初めて説明が与えられた。
今回の研究により、ガスリッチデブリ円盤の起源を巡る始原ガス説の妥当性が理論計算に基づいて初めて示された。一方で、始原ガス説と二次ガス説は決して相反するものではない。今後は両者を取り入れたハイブリッド的な考察も期待されている。
〈参照〉
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