北半球にも新鮮な氷が存在するエンケラドス
2004年から2017年までの13年間、土星とその衛星を周回したNASAの土星探査機「カッシーニ」だが、観測データの解析は今もなお続いており、新しい発見も報告されている。
カッシーニに搭載された可視光線・赤外線マッピング分光器「VIMS」は、土星とその環、10の主要な衛星を可視光線と赤外線で分光観測した。このデータからは各天体における表面の温度や組成、氷の粒子や結晶化の度合いなどを知ることができる。
そのVIMSが複数の波長の赤外線で観測した衛星エンケラドスの全球データが、このたび公開された。カッシーニの撮像システム「ISS」による画像と組み合わせることで、エンケラドスの地形と赤外線がどのように対応しているかが一目瞭然となっている。
直径約500kmのエンケラドスは反射率が高く、明るい白い雪玉のように見える衛星だ。2005年にカッシーニの観測によって、氷の地殻の下にある海から氷の粒子や水蒸気を噴出していることが判明した。噴出は南極にある「タイガーストライプ」と呼ばれる4本の割れ目で起こっており、今回公開された画像(右下)でもその存在がはっきりと見て取れる。生成されたばかりの水の氷に対応すると考えられる赤い(擬似色)領域が、タイガーストライプの周りに広がっている。
興味深いことに、北半球の一部にも赤い領域が見つかった(画像左上)。ここでも、何らかの要因で地下から地表へと新しい水の氷が供給されていたようだ。南極同様に間欠泉のような噴出口があるか、地殻の割れ目を通ってゆるやかに氷が移動しているのだと考えられている。
「赤外線画像は南極の表面が若いことを示していますが、そこに氷を噴出するジェットが存在することは知っていたので驚くべきことではありません。今回、この赤外線の眼のおかげで過去にさかのぼり、北半球にも若く見える大きな領域があるのだということができます。おそらく、地質学的な意味で、比較的最近まで活動していたのでしょう」(仏・ナント大学 Gabriel Tobieさん)。
将来的にこれらの技術を他の氷衛星にも利用し、エンケラドスと比較することが計画されている。木星の衛星ガニメデを周回し探査する「JUICE」計画や、エウロパを探査する「エウロパ・クリッパー」は同様に赤外線マッピングにより、衛星の活動を探る予定だ。
〈参照〉
- NASA:Infrared Eyes on Enceladus: Hints of Fresh Ice in Northern Hemisphere
- ESA:A new view of Enceladus
- Icarus:Photometrically-corrected global infrared mosaics of Enceladus: New implications for its spectral diversity and geological activity 論文
〈関連リンク〉
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