天体衝突で表面全体を削られた水星の過去
【2020年10月13日 東京工業大学地球生命研究所】
太陽系の惑星は、小さな塵が時間をかけて成長・集積を繰り返すことで形成されたと考えられている。約45億年前には惑星はすでに現在の大きさまで成長していたが、この時点では周囲にまだ小さな天体が多数残っていた。小天体は数億年かけて水星、金星、地球、火星に降り注いだとみられ、この過程は「後期集積」と呼ばれる。
後期集積は惑星の表面環境を形作るためにも重要で、地球ではこのとき衝突した天体に含まれる氷が水をもたらしたと考えられる。一方、太陽に近い水星では揮発性の高い物質はすぐに蒸発してしまうが、それにもかかわらず水星の表面から多数の揮発性元素の存在を示す証拠が見つかっている。
宇宙航空研究開発機構の兵頭龍樹さんと東京工業大学地球生命研究所の玄田英典さん、Ramon Brasserさんの研究チームは、惑星形成過程の軌道計算と水星への後期集積過程を再現する衝突計算を組み合わせた複数のシミュレーションによって、後期集積が水星表面にもたらす影響を調べた。
惑星形成過程の軌道計算から、水星への後期集積における小天体のサイズ分布、衝突速度分布、小天体の総質量はわかっている。そこで、さらに衝突を計算で再現して、水星表面が削られる量や、衝突天体のうち埋め込まれる量、破片として飛び散る量、蒸発する量などを統計的に調べた。
その結果、衝突によって水星表面が全球的に約50m~10km程度削られるという結論が得られた。また、水星の軌道領域では存在しにくい揮発性物質などが衝突時に溶融、蒸発し、短時間で冷え固まることで水星表面に供給され得ることもわかった。
観測によれば、水星の地表は一番古いところで約40~41億年前に形成されている。これは後期集積で水星全体が削られたというシナリオと矛盾しないものだ。また、太陽に近いにもかかわらず揮発性元素が存在していることについても、今回の研究で説明できる。
現在、日欧共同の探査機「ベピコロンボ」が2025年の水星到着を目指して順調に航行中だ。後期集積による表面形成のシナリオが、ベピコロンボによる水星の全球観測によって裏付けられることが期待される。
〈参照〉
- 東京工業大学地球生命研究所(ELSI):太陽系における後期集積が水星に与える影響
- Icarus:Modification of the composition and density of mercury from late accretion 論文
〈関連リンク〉
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