探査機「ベピコロンボ」、4回目の水星スイングバイを完了

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日本時間9月5日、日欧の探査機「ベピコロンボ」が4回目の水星スイングバイを実施して軌道を変更した。水星到着は2026年11月の予定だ。

【2024年9月9日 JAXAヨーロッパ宇宙機関

日本とヨーロッパの共同ミッション「ベピコロンボ」は、JAXAの水星磁気圏探査機「みお(MMO)」とヨーロッパ宇宙機関(ESA)の水星表面探査機「MPO」の2機が1つになって、2018年10月の打ち上げから水星へ向かって飛行を続けている。

今年5月、電気推進モジュール(MTM;Mercury Transfer Module)の電源系に不具合が発生し、イオンエンジンを最大出力で噴射できないことが明らかになった。原因究明と対策検討の結果、今後MTMのイオンエンジンを最大出力の90%以下で運用することが決まったが、この影響で水星到着(周回軌道投入)は当初の計画から約1年遅れ、2026年11月になる予定だ。

9月5日(日本時間、以下同)、ベピコロンボは4回目の水星スイングバイを実施した。このスイングバイの実施自体は当初の計画通りだが、MTMの不具合に伴う軌道変更により、最接近時の飛行高度は従来の計画より35kmほど低く設定された。探査機は午前6時48分に水星の表面から高度165kmにまで接近し、同計画としてはこれまでで最も鮮明な水星の画像を取得した。また、水星到着後に行う科学観測に先駆けて多くの観測機器が稼働し、探査機周辺の磁場やプラズマ粒子などを測定した。

4回目の水星スイングバイのイラスト
4回目の水星スイングバイの飛行経路を示したイラスト。(オレンジ色)MTMに搭載の3台のモニタリングカメラ(M-CAM)が撮影を実施した時間。上から順に、モニタリングカメラ2(M-CAM 2):最接近時から2時間、モニタリングカメラ3(M-CAM 3):最接近後の2~12分、モニタリングカメラ1(M-CAM 1):最接近の12分後~24時間。右側の破線の四角内は、MPO、MTM、「みお」に搭載されている観測機器名。太字が今回のフライバイ時に稼働した機器。画像クリックで表示拡大(提供:ESA)

「今回の主な目的は、太陽に対するベピコロンボの相対速度を低下させ、探査機の太陽周回軌道周期を水星の軌道周期に非常に近い88日にすることでした。結果は大成功でした。さらに、水星到着後に探査機が周回する軌道上からは決して到達できない場所や視点から、画像を取得したり科学的な観測を行ったりする機会が得られました」(ベピコロンボ フライトダイナミクスマネージャー Frank Budnikさん)。

水星
(左)水星最接近の数秒後となる午前6時49分に177kmの距離(水星表面から、以下同)からM-CAM 2で撮影した画像。ベピコロンボが撮影した中で最も水星に接近して取得した1枚。(右)午前6時53分に約355kmからM-CAM 2で撮影した画像。イタリアの有名な作曲家アントニオ・ビバルディ(1678-1741)にちなんで名付けられた直径210kmのクレーター「ビバルディ」に、「ピークリング」と呼ばれる環状構造が見られる。探査機の中利得アンテナ(中央上)や磁力計ブーム(右)も写っている。画像クリックで表示拡大(提供:ESA/BepiColombo/MTM、以下同)

「ベピコロンボは水星を訪れる史上3番目のミッションです。今回の接近で収集された画像と科学データは、水星到着後の本格観測への興味をかき立てる序曲となるものです」(ベピコロンボ モニタリングカメラ撮像チームコーディネーター Jack Wrightさん)。

今後、ベピコロンボは12月1日と来年1月8日にそれぞれ5回目と6回目の水星フライバイを行い、水星の公転軌道にさらに同調した軌道に入る。その後約2年間の通常巡航運用を経て、2026年11月に水星を周回する軌道に入る。

水星
(左)午前6時54分に約555kmからM-CAM 3で撮影した画像。「マティス」や「サリバン」、「ストッダート」といったクレーターがとらえられている。探査機の高利得アンテナの背面や本体の一部も写っている。(右)午前7時11分に約3459kmからM-CAM 2で撮影した画像。上部に南極と、その付近の3つのクレーターがマークされている。一部のクレーターの底には太陽光が届かないため、水の氷が存在する可能性が高いと考えられている。画像クリックで表示拡大