17世紀初頭、太陽活動の周期は16年まで延びていた

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樹木年輪に含まれる炭素14の濃度データから昔の太陽活動を復元した結果、通常11年の基本周期が、17世紀初頭に16年まで延びたことがあったと判明した。

【2021年3月17日 武蔵野美術大学山形大学千葉大学

太陽の活動は基本的に約11年周期で変動していて、黒点数の増減やフレアの頻度、太陽風の強さなどに表れる。さらに太陽活動は数百年から数千年のスケールでも変動していることがわかっていて、活動の低下が長期にわたって続くと気温低下などの影響も生じる。活動のメカニズムを理解して今後の変化を予測するために、過去の太陽活動を詳細に知ることが重要となる。

太陽黒点
2021年2月28日に撮影された太陽黒点(撮影:BombyxMoriさん)。画像クリックで天体写真ギャラリーのページ

黒点の数を遡って集計できるのはガリレオ・ガリレイらが観測した1609年ごろまでだが、太陽活動の変化は樹木の年輪中の炭素14(14C)や南極の氷床に含まれるベリリウム10(10Be)の濃度を計測することでも調べることができる。これらの放射性同位体は、宇宙線が大気中の酸素や窒素に衝突することで生成され、大気循環を経て樹木の年輪に、降雪によって氷床に取り込まれる。宇宙線は主に太陽系外から超高速で飛来する陽子などの荷電粒子で、太陽の磁場と太陽風が弱まればそれだけ太陽系内に入り込み、地球に到達しやすくなる。つまり、炭素14やベリリウム10が多かった時期は太陽活動も弱かったと推定できるのだ。

より正確に年数を把握できるのは年輪のほうだが、宇宙線で炭素14が生成されてから樹木に取り込まれるまでのタイムラグのため、誤差は避けられない。そのため、比較的短い11年の基本周期を炭素14で追跡するのは難しかった。

武蔵野美術大学の宮原ひろ子さんたちの研究チームは、炭素14濃度の測定精度自体をまず高めた上で、大気圏・海洋圏・生物圏における炭素14の循環を計算するモデルを使って飛来した宇宙線の量を逆算し、太陽活動を計算した。この手法によって測定精度が従来の4倍程度まで向上し、11年周期の変動も復元できた。

計測に用いられたのは、16~20世紀の年輪が刻まれている奈良県室生寺のスギ(樹齢382年)と伊勢神宮のスギ(樹齢439年)だ。宮原さんたちはこのうち、17世紀前半のデータに特に注目した。この時期は黒点観測の黎明期であると同時に、過去1000年で太陽活動度が特に低かった時期の一つ、マウンダー極小期(1645~1715年)の直前にあたる。

過去1000年間の太陽活動変動と17世紀以降の太陽黒点群数の変動
(a)樹木年輪や氷床コアに含まれる宇宙線生成核種の変動から復元された過去1000年間の太陽活動変動。数十年規模の活動低下が計5回発生していたことがわかる。これらは太陽活動極小期と呼ばれる。(b)17世紀以降の太陽黒点群数の変動。1645~1715年や1798~1823 年に黒点数の減少が見られ、それぞれマウンダー極小期、ダルトン極小期と呼ばれている(提供:プレスリリースより。データ出典:(a) Steinhilber et al., Natl. Proc. Acad. Sci., 2012, (b) Svalgaard & Schatten, Sol. Phys., 2016)

炭素14濃度から太陽活動度を復元した結果、マウンダー極小期が始まる3サイクル前の基本周期が16年(1606~1622年)に、直前の1633年に始まるサイクルも12~15年に伸びていたことがわかった。過去300年にわたる太陽の基本周期は平均11年で2年程度前後することはあったが、16年というのはそれと比べて異例の長さだ。

宮原さんたちはこの結果について、太陽の表層における循環が遅くなったことが周期の延びにつながり、そこからゆるやかに活動が低下したのだと解釈している。19世紀初頭に発生した小規模なダルトン極小期でも、直前のサイクルが延びていたのがわかっている。

炭素14の高精度データ、銀河宇宙線量の変動、太陽黒点数の変動
(a)赤色のデータが本研究で取得された炭素14の高精度データ。灰色は先行研究のデータ。(b)炭素14のデータと炭素循環ボックスモデルを用いた計算により復元された、地球に飛来した銀河宇宙線量の変動。(c)赤線がbとともに復元された太陽黒点数の変動。破線は望遠鏡により観測された黒点の記録を収集することにより再構築された黒点数の変動(提供:プレスリリースより。データ出典:Svalgaard & Schatten, Sol. Phys., 2016)

研究チームは樹木年輪や氷床コアのほかに堆積物を用いた研究も進めている。これらを相補的に用いることで太陽活動の歴史を調べ、そのメカニズムについて理解を深めたいとしている。

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