100億光年彼方で超大質量ブラックホールのペア発見
100億光年彼方の銀河の「心臓」に当たるクエーサーをハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測し、そのクエーサーが二重になっている例を発見した。2つの銀河が合体し、その心臓部も1つに融合しつつある姿をとらえたものだ。
初期宇宙では現在よりも小規模な銀河が多く、それらが合体を重ねることで大きな銀河へと成長してきた。遠く離れた天体を観測して過去の宇宙を調べれば、銀河の合体が盛んだったころの宇宙の様子を知る手がかりが得られる。遠い銀河の光は弱いため観測は難しいことが多いが、銀河の中心に大量の物質を飲み込んでいる超大質量ブラックホールが存在する場合、物質を引き寄せる過程で発生したエネルギーにより銀河全体よりも明るく輝くことがある。つまり、銀河そのものが見えなくても、中心核の輝きが地球から観測できることがあるのだ。こうした天体はクエーサーと呼ばれ、およそ100億年前の宇宙に最も多く存在したことがわかっている。
2つの銀河が衝突して合体すると、それぞれの銀河の中心にあった超大質量ブラックホール同士も引き合い、最後には合体すると考えられる。接近中の超大質量ブラックホールがともにガスを引き寄せながら輝いていれば、遠くからは2つの明るい光源が並んだ状態、つまり二重クエーサーに見えるだろう。ブラックホールが合体する過程には不明な点が多いので、その一面を見せてくれる二重クエーサーには多くの関心が寄せられている。
これまでに見つかった二重クエーサーは100組以上あるが、その多くが偶然の発見によるもので、クエーサーの活動が盛んだった100億年以上前の宇宙、つまり100億光年以上離れたところにある二重クエーサーは見つかっていなかった。米・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のYue Shenさんたちの研究チームは、候補天体を絞り込んでHSTで狙い撃ちする手法で、100億光年以上の距離にある二重クエーサーを2組見つけた。
Shenさんたちは、遠方天体を調べて宇宙の3次元地図作成を行ってきたスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)と、天の川銀河という近傍宇宙を調べてきたヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」という2つの異なるサーベイ観測が提供する天体カタログを活用した。超遠方にあるクエーサーの一覧をSDSSから得て、その位置を観測したガイアのデータを参照したのである。
ガイアは同じ天体を何度も観測し、運動の様子や見かけの位置の変化を調べている。近傍の恒星であればわずかながら動いて見えるはずだが、超遠方にあるクエーサーは全く動かないはずだ。
また、クエーサーはブラックホールがガスを取り込む過程で輝いているので、飲み込む物質の量が変化することで明るさも変わる。単独のクエーサーであれば位置を変えないまま明るさだけが変化するが、二重クエーサーの場合は明るさの重心が変化するので、2つのクエーサーを合わせた光点はわずかにぶれているように見え、そのぶれもガイアに記録されている。
Shenさんたちは「揺れるクエーサー」を探すことでHSTで観測する候補天体を4つまで絞り込み、そのうち2つが実際に二重クエーサーと判定された。研究チームの見積もりによれば、遠方宇宙のクエーサーで二重になっているものは1000個に1つしかないので、手当たり次第に探しても成功する見込みは低い。「この新手法は、これまでよりはるか遠くにある二重クエーサーを発見できるだけでなく、従来に比べて非常に効率的です」(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 Xin Liuさん)。
〈参照〉
- NASA:Hubble Spots Double Quasars in Merging Galaxies
- Gemini Observatory:Black Hole Pairs Found in Distant Merging Galaxies
- Nature Astronomy:A hidden population of high-redshift double quasars unveiled by astrometry 論文
〈関連リンク〉
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